愛国心のあり方

閲覧数2,984
ダウンロード数17
履歴確認

    • ページ数 : 4ページ
    • 会員550円 | 非会員660円

    資料紹介

    愛国心のあり方
     愛国心という言葉がメディアにおいてたびたび取り上げられるようになり久しい。今月就任予定の安倍首相は教育基本法の改正を重要課題として挙げているが、その中での主要な論点は愛国心や国を愛する心という文言を盛り込むかどうかであるし、今年ベストセラーとなった藤原正彦の『国家の品格』は「すべての日本人に誇りと自信を与える画期的日本論(上著、帯カバーより)」とされた。また、終戦記念日である8月15日に現首相である小泉首相が靖国神社を参拝したが、靖国問題の根底には日本の近代史をどのように見るか、すなわち、過去に日本国が関わった世界大戦を肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかという問題がある。彼らは一様に日本人が日本を愛する心を持つことは自然な感情であるとし、愛国心を健全で誰もが当然持つべきものであるとしている。
     それでは、彼らが言う愛国心とはそもそも何を指しているのだろうか。彼らにとっての国とは何を意味しているのか、そして国を愛するとはどのような行為なのか。
    このような問題意識は私が今年8月15日に靖国神社を訪れた際に生じたものである。まず、その時の経験を記したい。小泉首相が参拝したことで各メディアでも大きく報道された今年8月15日の靖国神社には、25万人以上の参拝者が訪れたという。何十メートルもの列を作り参拝を待つ人々、声を張り上げて君が代を斉唱する人々、彼らの目には「良き日本」、「愛すべき日本」が映っていたのかもしれない。しかし私はと言えば、どことなく奇妙な居心地の悪さを感じていた。それはかつて韓国留学中に従軍慰安婦のデモを見学した時のような、はたまた竹島を訪れた時のような腰の落ち着かなさであった。つまり、私はある一部の日本人が理想の日本を感じていた靖国神社において全く日本らしさを感じなかったのである。それはまるで言葉も通じない異国を独りでさ迷っているような気分であった。
     この経験から私は、同じ日本人、つまり日本人との間に生まれ、日本で育った日本国籍を有する者であっても、それぞれが思い描く日本や愛国心が意味するところは違うのではないかと考えるようになった。そして、このような実感が自明なことであるのはおそらく容易に理解できるだろう。例えばある人は、靖国神社に古き良き日本を見出すだろう。一方である人は富士山や桜といった自然に日本を感じそのような日本を愛するだろう。国家や愛国心という言葉が何を意味するかという点は、一人ひとり異なるのではないか。私は靖国神社を訪れてこのような意識を抱くようになった。
    この点についてましこ・ひでのりは国家や国民といった概念が虚構、想像されたもの、幻想、構築されたものであり「想像の共同体」に過ぎないと指摘している(ましこ・ひでのり『日本人という自画像、イデオロギーとしての「日本」再考』)。そして「国民国家の実体が構築されたものであるからこそ、(国は)それを守り、育まなければならない」とする(同著p.28)。つまり、唯一の日本という概念はフィクションに過ぎずに、そしてだからこそ国家はその虚構の日本、愛国心という概念を教育などを通じて維持しなくてはならないとするのである。
    例えば、現在でも日本は単一民族国家であるとする見方が多いが、在日外国人の数は増える一方である。また沖縄やアイヌの人々は日本人であることが自明であるかのように思われているが、日本人にカテゴライズされるのかは議論されるべき点であろう。また、先ほど指摘したようにいわゆる日本人(血統、国籍、文化的基盤が日本である人)の中でも、日本と聞いて何を思い浮かべるか、どの

    資料の原本内容 ( この資料を購入すると、テキストデータがみえます。 )

    愛国心のあり方
     愛国心という言葉がメディアにおいてたびたび取り上げられるようになり久しい。今月就任予定の安倍首相は教育基本法の改正を重要課題として挙げているが、その中での主要な論点は愛国心や国を愛する心という文言を盛り込むかどうかであるし、今年ベストセラーとなった藤原正彦の『国家の品格』は「すべての日本人に誇りと自信を与える画期的日本論(上著、帯カバーより)」とされた。また、終戦記念日である8月15日に現首相である小泉首相が靖国神社を参拝したが、靖国問題の根底には日本の近代史をどのように見るか、すなわち、過去に日本国が関わった世界大戦を肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかという問題がある。彼らは一様に日本人が日本を愛する心を持つことは自然な感情であるとし、愛国心を健全で誰もが当然持つべきものであるとしている。
     それでは、彼らが言う愛国心とはそもそも何を指しているのだろうか。彼らにとっての国とは何を意味しているのか、そして国を愛するとはどのような行為なのか。
    このような問題意識は私が今年8月15日に靖国神社を訪れた際に生じたものである。まず、その時の経験を記したい。小泉首相が参拝したこ...

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。