源氏物語の主幹をなすものは、東宮やがては天皇への資格を失った光源氏が、多くの女性との恋慕の物語を繰り広げるなかで、再び王権に近づいていこうとするという、私的恋愛世界と公的政治世界との両面を、源氏栄華の歴史に沿って描かれたところにある。すなわち、この物語の骨格をなす光源氏の私的世界と公的世界の両面ともに核心的に関わって存在し続ける女性を見出そうとしたとき、当てはまるのは藤壺ただ一人である。この点を鑑みても、藤壺の存在が源氏物語の展開に対して与える影響は非常に大きなものであることを認めなければならない。従って、以下では藤壺の存在がこの物語に対して与えた影響に関して、いくつかの方向性から論じていきたい。
第一に、藤壺の呼び名から読み取れる、光源氏に対しての女性としての存在価値であるが、これには藤壺が、そもそも光源氏の父にあたる桐壺帝の、桐壺更衣亡き後の正妻であるはずでありながら、光源氏がこの藤壺との不義密通を行っている点が大きく関わっているであろう。源氏物語においては、登場する女性が「をんな」「をんなぎみ」と呼ばれるのは、男に対する女としての存在を意味するものであり、光源氏の対象としての「をんな」も恋の場面で描かれている。
「源氏物語における、藤壺の役割を、文学的観点から論じよ。」
源氏物語の主幹をなすものは、東宮やがては天皇への資格を失った光源氏が、多くの女性との恋慕の物語を繰り広げるなかで、再び王権に近づいていこうとするという、私的恋愛世界と公的政治世界との両面を、源氏栄華の歴史に沿って描かれたところにある。すなわち、この物語の骨格をなす光源氏の私的世界と公的世界の両面ともに核心的に関わって存在し続ける女性を見出そうとしたとき、当てはまるのは藤壺ただ一人である。この点を鑑みても、藤壺の存在が源氏物語の展開に対して与える影響は非常に大きなものであることを認めなければならない。従って、以下では藤壺の存在がこの物語に対して与えた影響に関して、いくつかの方向性から論じていきたい。
第一に、藤壺の呼び名から読み取れる、光源氏に対しての女性としての存在価値であるが、これには藤壺が、そもそも光源氏の父にあたる桐壺帝の、桐壺更衣亡き後の正妻であるはずでありながら、光源氏がこの藤壺との不義密通を行っている点が大きく関わっているであろう。源氏物語においては、登場する女性が「をんな」「をんなぎみ」と呼ばれるのは、男に対...