3.学習心理学の知見は人事管理にどのように使用できるか。
企業の永遠の命題は、最大の利益を追求することである。これを踏まえると、人事管理の至上の目的は、「企業が最大利益を得るために、いかに社員を働かせるか」ということではないだろうか。本レポートでは、社員を働かせるためにどうしたらよいかということを学習心理学の知見と交えて考えていきたい。
まず、そのための最も簡単な方法として、仕事の対価として「報酬」を与えるということが挙げられるのではないだろうか。オペラント条件付けを用いるのである。社員が仕事を成し遂げたら「報酬」を与え、それにより社員が自発的に仕事をするように仕向けるのである。この時、行動を起こす手がかりとなること(弁別刺激)は自分の仕事の存在を認識することであり、実際にしたアクション(オペラント反応)は仕事を遂行すること、そしてそれによって出た結果すなわち次のアクションを出しやすくさせるもの(強化子)が「報酬」である。
ところで、何を「報酬」とすればよいのか。「報酬」というと給与がまず思い浮かぶが、これだけでは問題がある。ある程度の給与を貰ってしまったら満足してしまい、それ以上働こうとしない社員や、そもそも給与自体にさほど興味のない社員は反応しないかもしれない。この場合、給与はあまり意味のある「報酬」とは言えない。つまり、社員によって関心の対象は様々なのである。そこで、複数の「報酬」を用意することが有効なのではないかと考えられる。例えば、作業条件・会社の制度(福利厚生やキャリアアップ制度)といいた人事制度、または職場の人間から褒められることなどが挙げられる。こういった「報酬」の追求も、人事の仕事であろう。
では、「報酬」を追求、すなわちその種類の増加や質の向上はどのようにすればよいのだろうか。方法としては、社員にアンケートをとる方法や上司と部下とで個別面談を行ったりする方法が考えられるが、これらはすでに実行されているだろう。そして、こういった方法で100%社員の本音を聞きだせるかは疑問である。本音はどこで聞き取れるかといえば、気を許した人同士で会話をしている時である。従って、社員の本音から「報酬」を追求するためには、社内での人間関係の構築が不可欠になってくるのだ。そのために、研修に「人間関係構築の方法」を組み込むべきであると私は考える。このような研修にも、心理学の知見が使える部分は多々ありそうである。
4.試験直前の詰め込み勉強は効果的か。
その試験のみに対してもあまり高い効果は得られず、それ以降に自分の記憶としてとどめておくのには全く効果的ではないと考えられる。なぜなら、詰め込み勉強は短期記憶であるため、一日に記憶できる量は決まっており、その7割を次の日には忘れてしまう(ドイツの心理学者エビングハウスが記憶の持続時間について実験によって割りだしたデータによると、ある事柄を短期記憶で覚えたとして、その記憶は20分後にはその50%、翌日には67%、3日後には75%、一ヵ月後には80%が消え去る。)からである。
それでは、どうしても一夜漬けをせざるを得ない状況になったらどのようにすれば最も効果的であるのか。ここで、少しでも記憶を定着させるために、レム睡眠という手段を考える。ある仮説では、レム睡眠には人の記憶保持・増強の効果があると述べられている。また、寝ている時に記憶を整理してくれるという逆学習説も唱えられている。 これを用いれば、試験12時間前からの設定で最も時間を有効に使う方法は、次のタイムテーブルを組むことではないか。
前日の21時~当日4時半:一番大切なところを覚えだす。この時、全感覚を使うように話しながら書くのがよい。視覚・聴覚・触覚を使うことで、より多くの情報を手に入れられるからだ。
当日4時半~6時:一時間半ほど睡眠をとる。レム睡眠を起こすためである。
当日6時:試験まで残り3時間。ここからラストスパート。
また、脳には、以下のような干渉効果という現象があるため、一派付けの効果を高めるためには、記憶したこと以外の余計な情報を入れないようコントロールする必要がある。
暗記したものは、まず短期記憶を司る海馬という部分に入っていく。海馬はどんな情報もどんどん取り入れていくが、記憶を大量に貯めておくことができないため、入れては捨てることを繰り返している。このため、ずっと起きていてテレビを見たりなどすると、一夜漬けで覚えた記憶がすぐに新しい記憶に入れ替わってしまう。つまり、全部暗記できていないからといっていつまでも起きていると、かえって余計な情報が入ってきて、成績は下降する。
自分の限界を感じたら、潔く寝る。これも、短期決戦の先方の一つかもしれない。もっとも、冒頭で述べたように切羽詰った記憶には限界がある。やはり、普段からの努力が大切なのはいうまでもない。