金星雷論争

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    金星雷論争
    地球における雷放電
     地球全体で発生する雷放電は、平均すると1秒間に40回から100回程度といわれる。このうちの多くは雲内あるいは雲間での現象であるが、雲地上間で起きるものが落雷である。非線形的な破壊現象である雷放電は、個々の現象は大変複雑でメカニズムの解明は容易でない。しかしながら、積乱雲全体や地域ごと、世界全体で見たときの、ある程度統計的な振る舞いは、大気の活動を示す一つの指標として非常に有効であることが分かってきた。  例えば、地球全体の雷放電活動はELF電波や大気の鉛直電場の観測などから見積もられるが、それが地球平均気温の変動や衛星から観測された水蒸気量と、高い相関のあることが示されている。また、雷放電データの高時間分解能を活かした、積乱雲の中での潜熱輸送量推定や、集中豪雨を直前に予測する手段としても検討に値する。最近では全球雷放電活動に顕著な太陽自転と一致する周期が発見され、太陽活動と地球大気変動の関係を示唆するものとして注目を集めている。一方、大気組成への影響という点でも、対流圏におけるNOx生成量の2~8割が雷放電に起因するともいわれている。また、落雷は雷雲地上間の電流を担っているが、雷雲上空の電流は電離圏、さらには磁気圏へとつながっている可能性(グローバルサーキットモデル)も指摘されてきており、磁気圏物理という観点からも興味深い現象である。この10年余りは、落雷時の雷雲上空発光現象(スプライト、エルブスなど)が、大気電気と中層・超高層大気を結合するものとして、研究が盛んである。
    金星における雷放電現象はあるのか
     雷放電の持つこうした特色は、地球だけでなく、他の惑星の大気・プラズマ現象の研究にとっても有効なデータとなることを期待させる。もし、周回衛星から雷放電発光の分布を時々刻々観測することが可能になれば、惑星大気活動の時間空間変動モニターとして力を発揮するだろう。特に巨大な惑星面発光は、地上望遠鏡から検出することも可能かもしれない。  これまでに、地球以外で確実に雷放電発光が観測されているのは木星である。ガリレオ探査機によって得られた画像からは、高い積乱雲の近傍で活発な雷放電発光が確認されており、地球同様、大気の運動との強い関係をうかがい知ることができる。また、木星では、エチレンなどの一部の大気分子は雷放電によって作り出されたとする説もあり、化学的効果も無視できない。  金星における雷放電現象については、その有無をめぐって20年以上も論争が続いている。電波観測では、旧ソ連のベネラ11号と12号の着陸機や、米国のパイオニアビーナス周回衛星、ガリレオ探査機が、雷放電が起源と思われる電波をとらえている。光学観測では、ベネラ9号に搭載された測定器が、70秒間にわたり、初めて雷発光らしい現象を検出した。またアリゾナ大学は地上望遠鏡と高速CCDカメラによる観測を試み、3時間のうちに6~7個の雷放電の発光を撮像したと報告している(図参照)。
    アリゾナ大学によって地上から観測された金星雷放電発光の位置。 右はCCD画像の3次元表示で、鋭いピークが雷放電発光。 http://www.lpl.arizona.edu/~hansell/lightning/poster.html より (Hansell, S., et al., Icarus, 117, 345-351, 1995.)
     このように多くの観測が雷放電の存在を強く示唆しているのにもかかわらず、論争に決着はついていない。電波観測は、雷放電による電波と電気的なノイズや他のプラズマ波動現象との区別が難しいといわれており、光学観測では計測器が感度などの面で雷放電発光に対応しておらず、また観測領域が極めて狭いことから、雷放電の存在に懐疑的な結果もあるためである。発生機構については、高温で乾いた金星大気中では、地球の雷のような氷晶とあられによる電荷分離プロセス起きないという意見もある。しかし、たとえ水はなくても、硫酸の雲粒が電荷分離を引き起こしている可能性は十分ある。雷放電発生高度の観測的な手掛かりはほとんどないが、金星地表付近は気圧が高いため絶縁破壊しにくく、また雲底高度が45kmと地球に比べて高いことから、地球のような雲地表間の落雷は考えにくい。むしろ、スプライトのように、雲から高度100kmぐらいにある電離層に向かう方が容易かもしれない。
    長年の論争に終止符を
     Venus Climate Orbiter(Planet-C)では、雷放電の動かぬ証拠をつかんで長年の論争に終止符を打ち、さらには有効な大気活動のモニターの一つとなるべく、惑星探査機としては世界で初めて、雷放電発光専用の高速サンプリングセンサの搭載を検討している。同時に、最近の超高速CCDカメラを利用した、地上望遠鏡観測も準備が進められている。一方地球においても、静止軌道衛星に雷放電発光センサを載せることができれば、世界初の試みとして成果が注目されるだろう。
    (ISASニュース 2003年10月 No.271掲載)
    資料提供先→  http://www.isas.jaxa.jp/j/column/inner_planet/03.shtml

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