3-7ネーターの定理

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    ネーターの定理
    気になってはいたけど、まとめるのが面倒だったんだよなぁ。
    定理の概要
     物理的な対象に何らかの対称性が認められるとき、それに対応して何らかの保存量の存在が導かれる。 これが有名な「ネーターの定理」の意味するところだ。
     例えば、有名な運動量保存則というものがある。 この法則が、実は空間の並進対称性から導かれるものであることがネーターの定理によって分かる。 並進対称性というのは、考えている対象を全て一斉に平行移動してみたところで物理法則は何も変わりません、というものである。 我々の住む空間にそういう性質があるから、運動量保存則が成り立っているのだと言えるわけだ。
     他にもあって、角運動量保存則というのは空間の回転対称性に関連している法則だ。 つまり、宇宙には特別な方向などはなくて、どの方向を向けても法則は変わりませんという性質が、この法則と結び付いていると言える。
     また、エネルギー保存則は、時間発展対称性に結び付いている。 この対称性は、時間が経過しても今日も明日も明後日も法則は変わりませんというものだ。
     今回はこれらのことを説明してみよう。
    この定理は重要だろうか
     ところで、運動量保存則と並進対称性とが関連していることについては、すでにネーターの定理を使わずに説明したことがある。 ここよりずっと前、第 2 部の「 ポアッソン括弧式 」の一番最後のところだ。 そこでは括弧式に頼って説明したのだが、いやいや、そんな道具を使わないでも、もっと簡単に説明することだって出来る。
     ラグランジアンの中に、ある座標変数 が含まれていなかったとしよう。 このとき、この変数だけを → = + ε という具合にわずかにずらす座標変換を考えると、当然のことながら、新しく作られたラグランジアンにも は含まれないし、それどころかラグランジアンは以前と全く同じ形をしたままである。 これは を並進させる変換に対して、ラグランジアンに対称性があると言えるだろう。 さて、これをラグランジュ方程式に代入してみればいい。 ラグランジュ方程式というのは次のようなものだった。
     L に が含まれないというのだから、これの第 2 項は 0 だ。 それで第 1 項だけが残ることになるが、第 1 項の括弧の中は一般化運動量 と呼ばれているのだった。 それで、 は時間的に変化せず、一定だと言える。 すなわちこれは運動量保存則に他ならない。
     こんな具合に説明できてしまうくらいの内容ならば、ネーターの定理なんて大層なものは要らないのではないだろうか? 本題に入る前にもうしばらく、私の馬鹿な思考の彷徨いに付き合ってみて欲しい。
     ネーターの定理の意味することはわざわざ数学的に証明するまでもないことのように思える。 対称性があるというのは、変換しても何も変わらないという意味だ。 変わらないのなら、その「変わらないもの」を代表する数値が当然どこかにあるはずだろう。 それだけの事ではないのか?
     いや、感覚的にはそうかも知れないが、そんなにも単純だろうか。 何も変わらない時、変わらないものは一つだけではない。 何もかもが変わらないのである。 対称性に関連したある一つの変わらない変数が一体どれであるかを特定せよと言われても困ってしまう。 並進変換でラグランジアンが変化しないとき、それが「運動量保存」に結び付いている効果だなんて、すぐに分かるものだろうか? エネルギーだって変化していないはずだ。 なぜ並進変換の場合にはエネルギー保存は関係ないと言い切れるのだろう。
     

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    資料の原本内容

    ネーターの定理
    気になってはいたけど、まとめるのが面倒だったんだよなぁ。
    定理の概要
     物理的な対象に何らかの対称性が認められるとき、それに対応して何らかの保存量の存在が導かれる。 これが有名な「ネーターの定理」の意味するところだ。
     例えば、有名な運動量保存則というものがある。 この法則が、実は空間の並進対称性から導かれるものであることがネーターの定理によって分かる。 並進対称性というのは、考えている対象を全て一斉に平行移動してみたところで物理法則は何も変わりません、というものである。 我々の住む空間にそういう性質があるから、運動量保存則が成り立っているのだと言えるわけだ。
     他にもあって、角運動量保存則というのは空間の回転対称性に関連している法則だ。 つまり、宇宙には特別な方向などはなくて、どの方向を向けても法則は変わりませんという性質が、この法則と結び付いていると言える。
     また、エネルギー保存則は、時間発展対称性に結び付いている。 この対称性は、時間が経過しても今日も明日も明後日も法則は変わりませんというものだ。
     今回はこれらのことを説明してみよう。
    この定理は重要だろうか
     ところで、運動量保存則と並進対称性とが関連していることについては、すでにネーターの定理を使わずに説明したことがある。 ここよりずっと前、第 2 部の「 ポアッソン括弧式 」の一番最後のところだ。 そこでは括弧式に頼って説明したのだが、いやいや、そんな道具を使わないでも、もっと簡単に説明することだって出来る。
     ラグランジアンの中に、ある座標変数 が含まれていなかったとしよう。 このとき、この変数だけを → = + ε という具合にわずかにずらす座標変換を考えると、当然のことながら、新しく作られたラグランジアンにも は含まれないし、それどころかラグランジアンは以前と全く同じ形をしたままである。 これは を並進させる変換に対して、ラグランジアンに対称性があると言えるだろう。 さて、これをラグランジュ方程式に代入してみればいい。 ラグランジュ方程式というのは次のようなものだった。
     L に が含まれないというのだから、これの第 2 項は 0 だ。 それで第 1 項だけが残ることになるが、第 1 項の括弧の中は一般化運動量 と呼ばれているのだった。 それで、 は時間的に変化せず、一定だと言える。 すなわちこれは運動量保存則に他ならない。
     こんな具合に説明できてしまうくらいの内容ならば、ネーターの定理なんて大層なものは要らないのではないだろうか? 本題に入る前にもうしばらく、私の馬鹿な思考の彷徨いに付き合ってみて欲しい。
     ネーターの定理の意味することはわざわざ数学的に証明するまでもないことのように思える。 対称性があるというのは、変換しても何も変わらないという意味だ。 変わらないのなら、その「変わらないもの」を代表する数値が当然どこかにあるはずだろう。 それだけの事ではないのか?
     いや、感覚的にはそうかも知れないが、そんなにも単純だろうか。 何も変わらない時、変わらないものは一つだけではない。 何もかもが変わらないのである。 対称性に関連したある一つの変わらない変数が一体どれであるかを特定せよと言われても困ってしまう。 並進変換でラグランジアンが変化しないとき、それが「運動量保存」に結び付いている効果だなんて、すぐに分かるものだろうか? エネルギーだって変化していないはずだ。 なぜ並進変換の場合にはエネルギー保存は関係ないと言い切れるのだろう。
     そう言えば、そもそもラグランジアンが不変なのだから、「ラグランジアン保存則」なんてものだって在って良さそうだ・・・。(警告! エラー! エラー! 思考暴走中!) ああ、そうか。 ラグランジアンは関数であって、変換によって変わらないのは値ではなくて、その形なのか。 値は場所によって変わってるから、保存則にはならないってことか。(警報は解除されました)
     とにかく対称性があればそこに必ず保存量が存在する、という考えは間違いのようだ。 例えば、常に一定方向に同じ大きさの力が掛かって加速しているような質点の運動方程式は、平行移動してみたところで、形が全く変わらない。 この運動方程式には並進対称性があると言えるだろう。 しかしこの質点の運動量は保存などしないで変化し続けるのは明らかではないか。
     ネーターの定理というのは、もっと限定された内容を表しているに違いない。 何だかネーターの定理が偉大なものに見えてきた。
    ネーターの定理の導出
     ネーターの定理の説明の仕方は何通りかある。 私の見た中で最も抽象度が低いだろうと思うやり方でやってみよう。 これより楽な方法もあるにはあるが、その真意が理解しにくいので今は避けることにする。
     ラグランジアンというのは L( , , t ) という形をしている。 ここまでに出てきた範囲では、L というのは や のみの関数であり、t を直接は含んでいなかった。 しかし t を含むような形のものも今後紹介する可能性もあるので、ここでは一応書いておくとしよう。 3 次元中の N 個の質点を考える場合、添字の i には 1 ~ 3N までの数値が入ることになる。 つまり、このラグランジアンは 3 N + 1 個の変数を持つ関数だということである。
      や はそれぞれ粒子の位置や速度を表しており、t の関数になっている。 よって、L が t を直接含まない場合であっても、L は間接的には t の関数になっていると言える。 こんなことは定理の導出にはあまり関係ないことだが、話が進むにつれて混乱するかも知れないので、今の内にちょっと注意しておいた方が良かろうと思ったのである。
     では本題に入ろう。 これから → という座標変換をすることを考える。 それによって普通はラグランジアンの形は変わるものであるから、それを L とは違う記号を使って表し直す必要があるだろう。 ここでは L' ( , , t ) と書くことにしよう。 同じものをただ座標変換しただけのことなので、
    という関係が成り立っている。 ところで、もしこの右辺が、L' ( , , t ) ではなくて、 L ( , , t ) となっていたとしたらどうだろうか。 つまり座標変換によって、もしラグランジアンの形式が全く変化しなかったとしたら・・・と仮定するのである。 こんな式が成り立つことになる。
     この仮定の意味するところは、使う座標が変わってはいるものの、全く同じ形式の法則に乗せて物理現象が記述できる、ということだ。 こういう状況を指して、「座標変換に対してラグランジアンに対称性がある」と表現する。
     ところがここで仮定したようなことは普通の座標変換では滅多にあることではない。 最もポピュラーなデカルト座標から極座標への変換でさえ、ラグランジアンの形を大きく変えてしまうではないか。  そこで、今仮定した状況が容易に実現しそうな「無限小の座標変換」というものに限定して話を続けることにする。
     この式にδ記号を使っているのを見て、無意識に、変分原理と似たことをするのだなと勘違いしてしまうかも知れないので注意が必要だ。 これは粒子の位置をわずかにずらした状態を考えようというのではない。 粒子の位置を表す為の「座標の目盛り」の方をわずかに δq だけずらすことを考えるのである。 全空間で一斉に同じだけずらすのではなく、場所によってずらし方が変わっていてもいいとする。 ここで、δL として、
    と定義したものを考えれば、先ほどの仮定より δL = 0 だと言える。 この式に、今の無限小の座標変換を代入してやれば、
    ということであり、この 1 次の変化のみを考えるならば
    である。 ここで第 1 項に対してラグランジュ方程式を使ってやると、
    と変形できるだろう。 大した事はやっていない。 よく分からなければ、2行目から1行目に向って逆算してみることだ。 この結果として、次のことが言える。
     これで終わりだ。 要するに、「q → q + δq の無限小変換によってラグランジアンが形を変えなければこの式が成り立つ」というのが、ネーターの定理の内容である。
     もっと仰々しいものを想像していたかも知れないが、案外簡単な結論である。 ただこれだけ見ていても面白さが良く分からないかも知れない。 冒頭で説明したようなことを導くためには、これを個別の状況に当てはめてみる必要がある。
    運動量保存
     上で導いたネーターの定理の式は、 N 個の質点の位置を表す座標の各成分について、別々のずらし方を適用することが出来るような形になっている。  しかしこのままでは面倒なので、どの質点の位置も同じ座標を使って表現してやろうという、ごく自然な考えを取り入れることにしよう。 そしてどの質点についても共通の無限小ベクトル δq だけ座標をずらしてやると考えるのである。  そうすれば先ほどのネーターの定理の式は次のようにベクトルですっきりとまとめられる。
     先ほどは無限小変換の δq が場所によって違いがあってもいいと説明したが、ここでは全空間で一斉に同じだけ微小にずらすことを考えてみよう。 要するに座標の平行移動だ。 このことは微小な定数 ε と任意のベクトル n を使って、
    と表せるだろう。 これを代入してやれば、
    が言える事になり、運動量保存則が導かれたことになる。
     ただしこのことが成り立つのは、今やった平行移動の無限小変換によってラグランジア...

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