1-4微分演算子の座標変換

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    微分演算子の座標変換
    計算は面倒だが理屈は簡単。
    偏微分の変換
     偏微分を含んだ式の座標変換というのは物理でよく使う。 この計算は微分演算子の変換の方法さえ分かっていればまるで問題ない。
     例えばデカルト座標から極座標へ変換するときの偏微分の変換式は、
    となるのであるが、なぜそうなるのかというところまで理解できぬまま、そういうものなのだとごまかしながら公式集を頼りにしている人が結構いたりする。 学生時分の私がそうであったし、最近、読者の方からもこれについての質問を受けたので今回の説明には需要があるに違いないと判断する。
     以下ではこのような変換の導き方と、なぜそのように書けるのかという考え方を説明する。 式だけ示されても困る人もいるだろうから、ついでに使い方も説明しておこう。
    考え方
     ある関数 A を x で偏微分しようと考える。 つまり記号で書けば、∂A/∂x を計算しようということである。  ところがそこでふと気付く。 何と、A は x の関数ではなくて、極座標 ( r, θ, φ ) で表された関数だった!
    A ( r, θ, φ )
     こんなときにはどうしよう。 あきらめるか? いや、ちゃんと方法がある。 そもそも A を x で偏微分するというのは x が微小変化したときの A の微小変化を x の微小変化で割るということなのであるから、例えば、r が微小変化したときの A の微小変化の割合と、 x だけ微小変化したときの r の微小変化の割合をかけてやれば、 x が微小変化したときの A の微小変化を間接的に求めたことになるのではないだろうか?  言葉にすると面倒な表現だが、数式で表すとシンプルであって、
    ということである。 まあ、微分なんていうのは結局のところ、微小量同士の割り算に過ぎないということだ。 その証拠に上の式を約分すれば (∂A/∂x) になってしまう。  しかしこれだけでは正しくないので気を付けよう。  まだ考えが抜けている部分がある。  極座標の場合、x が変化すれば r だけでなく θ、φ も変化するのである。 すると、それに釣られて A はさらに変化することになる。 だから x が変化したときの A の変化の割合を知りたければ、これらの影響も足し合わせなければならない。 つまり、次のようになる。
     さて、ここまで関数 A を使って説明してきたが、この話は別に A でなくともどんな関数でもいいわけで、この際、書くのを省いてしまうことにしよう。
     ただし、A を省くと (∂/∂r) などは「微分演算子」になり、そのすぐ後に来るものを微分しなさいという意味になってしまうので、そのままの順序だと都合が悪い。 例えば第1項目の A を省いてそのままの順序にしておくと、この後に来る関数に (∂r/∂x) を掛けてからその全体を r で微分しなさいという意味にとられてしまう。 それで式の意味を誤解されないように各項内の順序を変えておいた。
    テクニック
     さあ、あとは、(∂r/∂x), (∂θ/∂x), (∂φ/∂x) の3つを計算すればいいだけだ。 そのために、( x , y , z ) と ( r , θ , φ ) の間の関係式が必要になる。 しかし、次の関係を使って微分を計算するのは少々面倒である。
     これで計算できないこともない。 面倒だが逆関数の微分を使ってやればいいだけの話だ。 しかし別の方法もある。
    というすっきりした関係式を使う方法だ。 どちらの方法が簡単かは場合によって異なる。
     ここ

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    資料の原本内容

    微分演算子の座標変換
    計算は面倒だが理屈は簡単。
    偏微分の変換
     偏微分を含んだ式の座標変換というのは物理でよく使う。 この計算は微分演算子の変換の方法さえ分かっていればまるで問題ない。
     例えばデカルト座標から極座標へ変換するときの偏微分の変換式は、
    となるのであるが、なぜそうなるのかというところまで理解できぬまま、そういうものなのだとごまかしながら公式集を頼りにしている人が結構いたりする。 学生時分の私がそうであったし、最近、読者の方からもこれについての質問を受けたので今回の説明には需要があるに違いないと判断する。
     以下ではこのような変換の導き方と、なぜそのように書けるのかという考え方を説明する。 式だけ示されても困る人もいるだろうから、ついでに使い方も説明しておこう。
    考え方
     ある関数 A を x で偏微分しようと考える。 つまり記号で書けば、∂A/∂x を計算しようということである。  ところがそこでふと気付く。 何と、A は x の関数ではなくて、極座標 ( r, θ, φ ) で表された関数だった!
    A ( r, θ, φ )
     こんなときにはどうしよう。 あきらめるか? いや、ちゃんと方法がある。 そもそも A を x で偏微分するというのは x が微小変化したときの A の微小変化を x の微小変化で割るということなのであるから、例えば、r が微小変化したときの A の微小変化の割合と、 x だけ微小変化したときの r の微小変化の割合をかけてやれば、 x が微小変化したときの A の微小変化を間接的に求めたことになるのではないだろうか?  言葉にすると面倒な表現だが、数式で表すとシンプルであって、
    ということである。 まあ、微分なんていうのは結局のところ、微小量同士の割り算に過ぎないということだ。 その証拠に上の式を約分すれば (∂A/∂x) になってしまう。  しかしこれだけでは正しくないので気を付けよう。  まだ考えが抜けている部分がある。  極座標の場合、x が変化すれば r だけでなく θ、φ も変化するのである。 すると、それに釣られて A はさらに変化することになる。 だから x が変化したときの A の変化の割合を知りたければ、これらの影響も足し合わせなければならない。 つまり、次のようになる。
     さて、ここまで関数 A を使って説明してきたが、この話は別に A でなくともどんな関数でもいいわけで、この際、書くのを省いてしまうことにしよう。
     ただし、A を省くと (∂/∂r) などは「微分演算子」になり、そのすぐ後に来るものを微分しなさいという意味になってしまうので、そのままの順序だと都合が悪い。 例えば第1項目の A を省いてそのままの順序にしておくと、この後に来る関数に (∂r/∂x) を掛けてからその全体を r で微分しなさいという意味にとられてしまう。 それで式の意味を誤解されないように各項内の順序を変えておいた。
    テクニック
     さあ、あとは、(∂r/∂x), (∂θ/∂x), (∂φ/∂x) の3つを計算すればいいだけだ。 そのために、( x , y , z ) と ( r , θ , φ ) の間の関係式が必要になる。 しかし、次の関係を使って微分を計算するのは少々面倒である。
     これで計算できないこともない。 面倒だが逆関数の微分を使ってやればいいだけの話だ。 しかし別の方法もある。
    というすっきりした関係式を使う方法だ。 どちらの方法が簡単かは場合によって異なる。
     ここで注意しなければならないことだが、 例えば (∂r/∂x) を計算したいというので、 x を r で偏微分して・・・・つまり (∂x/∂r) を計算してからその逆数を取ってやるなどという方法は使えない。 微分というのは微少量同士の割り算に過ぎないとは言ってきたが、偏微分の場合には多少意味合いが異なる。  (∂r/∂x) は y や z を固定したときの r の微小変化であるが、 (∂x/∂r) を計算する場合に r を微小変化させると y や z も変化してしまうからである。 私は以前、恥ずかしながらこのやり方で間違った結果を導いてしまった。
     ではどうすればよいか。 立場を逆転させて考えてやればいい。 ここまでデカルト座標から極座標への変換を考えてきたが、極座標からデカルト座標への変換を考えれば次のようになるはずである。
     この計算は非常に楽であって結果はこうなる。
     これを連立方程式と見て逆に解いてやれば求めるものが得られる。 ・・・と簡単には言うものの、これは大変な作業になりそうである。 それで線形代数の知識を使うのである。 もともと線形代数と言うのは連立1次方程式を楽に解くために発展した学問なのだ。 この式を行列形式で書いてやれば、
    であり、ここで出てくる3×3行列の逆行列さえ求めてやれば、それを両辺にかけることで望む形式に持っていける。 では3×3行列の逆行列はどうやって求めたらいいのか? それはここでは説明しないが「クラメルの公式」「余因子行列」などという言葉を頼りにして教科書を調べてやればすぐに見つかるだろう。 簡単に書いておけば、余因子行列を転置したものを元の行列の行列式で割ってやればいいだけの話だ。 計算の結果は
    のようになり、これは初めに掲げた変換式と同じものになっている。 この考えで極座標や円筒座標に限らず、どんな座標系についても計算できる。 がんばれ。
    使い方
     例えば、デカルト座標で表された関数 f ( x, y, z ) を x で偏微分したものを極座標に変換したいとする。
     ∂f/∂x というのは、(∂/∂x) f という具合に分けて書ける。 この (∂/∂x) の部分に先ほど求めた式を代わりに入れてやればいいのだ。 つまり、
    と計算できるということである。 関数 f が各項に入って3つに増えてしまう事については全く気にしなくていい。 この計算で正しいのだから。
     あとは計算しやすいように、関数 f を極座標を使って表してやればいい。 変換式を代入してやればいいだけであるからこれは簡単であろう。
    2階微分はちょっと厄介だ
     もう少し説明しておかないと私は安心して眠れない。 2階微分を計算するときに間違う人がいるのではないかと心配だからだ。 関数 f を x で2階微分したもの ∂2f/∂x2 は、次のように分けて書くことが出来る。
     微分演算子が2つ重なるということは、f を x で微分したもの全体をさらに x で微分しなさいということであり、ちゃんと意味が通っている。  そう言えば高校生のときに数学の先生が、「微分の記号って言うのは実にうまく定義されているなぁ」と一人で感動していたのは、多分これのことだったのだろう。 
     2階微分の座標変換を計算するときにはこの意味を崩さないように気を付けなくてはならない。 どういう事かと言えば・・・・( ∂/∂z ) の変換式が簡単なので例としてこれを使うことにしよう・・・・つまり、( ∂2/∂z2 ) が ( ∂/∂z ) を二つ重ねたものだからといって、以下のように普通に掛け算をしたのでは間違いである。
     演算子の変形は、後に必ず何かの関数が入ることを意識して行わなくてはならないのである。 例えば、( ∂/∂x ) g という形の演算子があったとする。 この g も演算子であって、これはこの後に来る関数にまず g を掛けてからその全体を x で微分するという意味である。 分かり易いように関数 f を入れて試してみよう。 これは、
    のように計算することであろう。 だからこれを演算子のみで表すと
    という具合に変形しなければならないことが分かる。
     このことを頭において先ほどの式を正しく計算してみよう。 演算子の後に積の形がある時には積の微分公式を使って変形する。 掛ける順番によって結果が変わることに気を付けなくてはならない。
     これだけ分かっていれば、もう大抵の座標変換は問題ないだろう。 しかし・・・面倒くさいな。 やっぱり公式集に頼るか。(笑)
    資料提供先→  http://homepage2.nifty.com/eman/analytic/bibun.html

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