ベクトルによる定義
理解できればとても便利。
なぜベクトルを使うか
ここまでは力のモーメント N や角運動量 L について、ベクトルを使った正式な定義を示さないで説明してきた。 というのも、軸を固定した状況での回転ではわざわざベクトルを使って考える利点はそれほどなくて、複雑さが増すだけだと判断したからである。
しかしコマの例で見たように、物体にはいろんな方向から外力が働き、それに応じて回転軸の方向も時々刻々と変化するものである。
また宇宙空間を漂う物体は重心の周りをどの方向にも自由に回転できる。 なぜ重心の周りを回るかと言うと、第1部で話したように、外力がない限り重心位置は等速運動するのだったから、重心と同じ速度で並進して物体を観察した場合、重心位置だけは止まって見える。 だから物体はその周りを回っているように見える、ということである。
このような状況があるので、軸を固定しない物体に対して力のモーメントがどんな方向に加わった場合にでもその回転を論じる事のできる方法が必要である。
物体の運動は、ある点を中心としたきれいな円運動ばかりとは限らない。 例えば、太陽の周りを回る惑星の運動は楕円形であって、これは回転半径も常に変化しているような状況である。 そのような場合でも角運動量は保存しているのだろうか。
色々気になる事はあるが、この記事ではとりあえず、ベクトルを使った正式な定義とその意味について説明する事に集中しよう。
力のモーメントベクトル
ベクトルを使った力のモーメント N の定義は、力をベクトル F で表し、力が加わる位置をベクトル r で表したとき、
として表される。 前にベクトルを使わない定義として示した式と全く同じ形をしているが、今回の「×」記号は単に「かける」という意味ではない。 ベクトルとベクトルを掛け合わせる時にこの記号を使うと、それは「外積」という数学的操作を行うことを意味することになる。
外積とはどういうものであるか についてはすでに別のところで解説したものがあるので、先にリンク先の記事を読んでもらいたい。 以下の説明はそちらを読んでもらった事を前提に行うことにする。
ふぅ。 ちょっと休憩。 先に外積の記事を読んでから戻ってきて下さいな。 え、もう読んできた? では説明再開だ。
外積には掛ける順序に意味がある。 r と F を逆にすると符号が逆になってしまう。 だから上の定義はそのままの順で覚える必要がある。 いや、丸暗記は必要ない。 もし忘れてしまってもすぐに思い出すことはできる。 この定義は、力 F が加わって回転した時に、あたかも右ねじが回転して進む方向がベクトル N であるかのようなイメージとなるように作られているのだ。 ベクトル N は回転の軸方向を表している。
これは物体が回転したからと言って、ベクトル N の方向に力が掛かるとかそちらへ進むとか、そういうことを意味してはいない。 コマの話のところでも似たことを説明したが、これは便利だからそういう表現方法を取っているだけである。
さて、外積というのは、相手のベクトルの直角成分との積を取るという意味があるのだった。 つまり、位置ベクトル r に対して直角方向を向いた成分の力を掛けることになる。 以前にこのような図を示して説明した事がある。
以前にこの赤色矢印の成分だけを F として使うべきであると説明した。 しかし外積を使うと、それは自動的に行われるのである。 青色矢印の力を F としてそのまま使えばいい。 緑色の矢印の力、すなわちベクトル r と同じ方向成分の力は、この外積の計算で自動的に全く無視されてしまうのである。 よく出来ているものだ。
角運動量ベクトル
角運動量のベクトルを使った表現も、形式的には上でやったのと全く同じである。
ところがここで気になるのは運動量 p の方向である。 きれいな円運動を続けている場合には p というのは物体が持っている全運動量だと考えて良かった。 運動量ベクトル p の方向は刻々と変化するだろうが、位置ベクトル r も同じように変化するので、 p は常に r に対して垂直を保ち続けるからだ。
しかし p がそれ以外の成分を持っていたらどうだろう。 つまり r と同じ方向成分を持つ場合であって、これは回転半径が増えたり減ったりするような動きを含む場合である。 定義から言って、このような成分は角運動量としては計上されないのである。
上の図で言えば、質点が青い矢印のような運動量を持つ場合には、角運動量として計算に入るのは赤い矢印の成分だけだということである。
これはどうも奇妙に思える。 なぜなら、このまま放っておけば回転半径 |r| はどんどん大きくなってしまうのではないだろうか? 回転半径が大きくなれば角運動量は大きくなるのだった。
緑色の矢印の運動量成分を計算にどうにか取り入れて何らかの対処をした方がいいのではないだろうか。 この定義のままで問題が起こったりしないのだろうか。
それについては次回で考えることにしよう。 とりあえず今回示したのが正式な定義であり、安心して使って構わない。
資料提供先→ http://homepage2.nifty.com/eman/dynamics/vec_moment.html