情報技術普及度および情報システム部門の
リーダシップ低下に関する調査分析
17回日本経営システム学会全国研究発表大会(1996.10.12)発表 『日本経営システム学会誌』Vol.13, No.2, 1997.2, pp45-50
本論文は、1996年初に日本ガイドシェアのプロジェクトチームで、ホワイトカラーの生産性に関連する情報技術の普及状況についてアンケート調査をした結果に基づいて作成したものである。 最新情報技術の普及に関するアンケート調査を行った。アンケートに工夫することにより、より現実に近い普及度を把握できること、新規技術導入の推進要因と阻害要因の調査から、新規技術の導入における情報システム部門の影響力が低下していることについて論じた。
1.序論(問題認識) 2.調査の概要 3,調査の結果(問題認識の検証) 4.結論(新たな問題提起) 付録 アンケート質問表の一部
1.序論(問題認識) 最新情報技術の普及状況には関心が集まる。情報技術を利用する側の企業としては、自社での情報技術導入検討に他社状況は関心があるし、提供側の企業にとっては、市場動向の把握のために重要である。それに応えて、多くの雑誌や団体がアンケート調査を行っている(「巷の調査」という)。筆者らも、1996年初に日本ガイドシェア(日本アイビーエム社のユーザ団体、以下「JGS」という)のプロジェクトチーム(以下「チーム」という)で、ホワイトカラーの生産性に関する情報技術の普及状況についてアンケート調査(以下「本調査」という)を行った。 筆者は、次のような問題認識を持っており、それをこのアンケートで検証しようとした。
1 巷の調査では、最新技術の普及度が高いほうに偏る傾向がある。たとえば電子メールの普及度では、半数程度が「全社的に導入」しているような結果が多い(注1)。しかし、自分の周囲を見ると、それほど普及しているとは到底思えない。
2 情報技術の採用では、トップやユーザが主体的に取り組むべきである。それは望ましいことではあるが、反面、情報システム部門のリーダシップの重要性が低下しているともいえる(注2)。その状況を調べたい。
注1 この種のアンケートは多い。たとえば日本情報システム・ユーザ協会(1996)の電子メール普及度調査では、全社的54%、部門毎19%、未導入27%である。また、コンピュートピア誌(1996.10)の調査では、インターネット接続状況は、従業員3000人以上の企業では57%が既に接続済となっている。
注2 多くの統計では、情報関連投資は増大しており、情報システム部門の重要性は高まったとしている。ところが、現実のシステム化の優先順位やアプリケーション仕様の決定などでは「ユーザ主導」によることが多くなり、情報システム部門のリーダシップは、以前とくらべて低下している。このようなことは、非公式にはよくいわれている。
2.調査の概要
2.1 調査組織と調査目的 経営的な観点から、ホワイトカラーの生産性向上が重視されている。その実現には情報技術の活用が有効だといわれている。本調査は、JGSの1996年度プロジェクトチーム「BS−90 JGS IT調査年報チーム(全国)」において、「ホワイトカラー生産性向上の観点から見た情報技術の位置づけと分析」のテーマで、1996年1月から2月にかけて実施した。その調査内容は、電子メール、ワークフローシステム、モバイルコンピューティング、プレゼンテーションツールについて、現在の活用状況、今後の自社および世間での
情報技術普及度および情報システム部門の
リーダシップ低下に関する調査分析
17回日本経営システム学会全国研究発表大会(1996.10.12)発表 『日本経営システム学会誌』Vol.13, No.2, 1997.2, pp45-50
本論文は、1996年初に日本ガイドシェアのプロジェクトチームで、ホワイトカラーの生産性に関連する情報技術の普及状況についてアンケート調査をした結果に基づいて作成したものである。 最新情報技術の普及に関するアンケート調査を行った。アンケートに工夫することにより、より現実に近い普及度を把握できること、新規技術導入の推進要因と阻害要因の調査から、新規技術の導入における情報システム部門の影響力が低下していることについて論じた。
1.序論(問題認識) 2.調査の概要 3,調査の結果(問題認識の検証) 4.結論(新たな問題提起) 付録 アンケート質問表の一部
1.序論(問題認識) 最新情報技術の普及状況には関心が集まる。情報技術を利用する側の企業としては、自社での情報技術導入検討に他社状況は関心があるし、提供側の企業にとっては、市場動向の把握のために重要である。それに応えて、多くの雑誌や団体がアンケート調査を行っている(「巷の調査」という)。筆者らも、1996年初に日本ガイドシェア(日本アイビーエム社のユーザ団体、以下「JGS」という)のプロジェクトチーム(以下「チーム」という)で、ホワイトカラーの生産性に関する情報技術の普及状況についてアンケート調査(以下「本調査」という)を行った。 筆者は、次のような問題認識を持っており、それをこのアンケートで検証しようとした。
1 巷の調査では、最新技術の普及度が高いほうに偏る傾向がある。たとえば電子メールの普及度では、半数程度が「全社的に導入」しているような結果が多い(注1)。しかし、自分の周囲を見ると、それほど普及しているとは到底思えない。
2 情報技術の採用では、トップやユーザが主体的に取り組むべきである。それは望ましいことではあるが、反面、情報システム部門のリーダシップの重要性が低下しているともいえる(注2)。その状況を調べたい。
注1 この種のアンケートは多い。たとえば日本情報システム・ユーザ協会(1996)の電子メール普及度調査では、全社的54%、部門毎19%、未導入27%である。また、コンピュートピア誌(1996.10)の調査では、インターネット接続状況は、従業員3000人以上の企業では57%が既に接続済となっている。
注2 多くの統計では、情報関連投資は増大しており、情報システム部門の重要性は高まったとしている。ところが、現実のシステム化の優先順位やアプリケーション仕様の決定などでは「ユーザ主導」によることが多くなり、情報システム部門のリーダシップは、以前とくらべて低下している。このようなことは、非公式にはよくいわれている。
2.調査の概要
2.1 調査組織と調査目的 経営的な観点から、ホワイトカラーの生産性向上が重視されている。その実現には情報技術の活用が有効だといわれている。本調査は、JGSの1996年度プロジェクトチーム「BS−90 JGS IT調査年報チーム(全国)」において、「ホワイトカラー生産性向上の観点から見た情報技術の位置づけと分析」のテーマで、1996年1月から2月にかけて実施した。その調査内容は、電子メール、ワークフローシステム、モバイルコンピューティング、プレゼンテーションツールについて、現在の活用状況、今後の自社および世間での普及予想、自社普及での推進・阻害要因などである。
2.2 調査対象と回答状況
(1)調査対象 調査対象は、JGS会員企業のうち、メンバの見聞により情報技術活用の面で先進していると想定した企業88社を選定した。その理由は、報告対象がJGSであることと、われわれの関心が日本全体の一般企業の平均像を把握することではなく、先進企業の状況把握にあったためである。 回答依頼先は、会員名簿によったが一般的に情報システム部門の管理職である。また、調査対象企業には大企業の情報子会社が多いが、情報子会社を調査したのでは、通常のホワイトカラーの環境とは異なる環境になりやすい。それで、情報子会社については、親会社について回答するように依頼した。
(2)回答企業 88社に郵送でアンケートして55通の回答を得た(回収率62%)。郵送によるアンケートとしては、かなり高い回収率である。回答企業のプロフィールを表1に示す。 表1 回答企業(親企業)の業種 一般製造業 25社 金融・保険 15 情報関連産業 6 商社・小売業 3 建設業 3 都市ガス業 3 −−−−−−−−−−−− 合 計 55社
3.普及度に関する検証
3.1 「導入」と「利用」との違い ここでは、対象技術のうち最も普及しており、調査も多く行われている電子メールを例にする。表2での「電子メールを導入しているか」の質問には、「導入済み」が49社、「検討中」が5社で、「未導入」は1社に過ぎない。この普及率の数値は巷の調査での数値よりもむしろ高い。
表2 電子メールの導入状況 導入済み 49社 検討中 5 未導入 1
導入企業での普及程度について、巷の調査では「全社的か/部門的か」というような質問をしていることが多い。それでは、回答者の大多数は情報システム部門なので、情報システム部門でテスト的に導入している場合でも「部門的に導入」と答えるであろう。これは実際の普及とは違う。それを避けるために、本調査では「ホワイトカラーの何%が利用しているか」という質問にした。すなわち、本来利用すべき対象者の内、実際に利用している人の割合を聞いたのである。
表3 電子メールの現在の使用状況) ほとんど全員 8社 50%以上 16 20%以上 12 10%以上 6 ほとんど未使用 12 不明 1
その結果は表3に示すように、「ほとんど全員」と「50%以上」が24社、「50%以下」が18社で、「ほとんど使っていない」が12社もあった。このように、単に「導入しているか」での回答と、実際の利用状況には大きな差があり、現実の普及度はかなり低いのである。
3.2 実際の普及度 巷の調査での電子メールの導入については、「全社的に導入」との回答が50%前後であることが多い。本調査でも「ほとんど全部」と「50%以上」を「全社的」とするならば、55社中24社になり44%である。 ところが、本調査の対象企業は先行企業である。本調査では、利用度が50%になる時期(本来利用すべき人の過半数が利用するようになる時期)を、自社と世間(同業他社平均)を比較したところ、表4のようになった。自社では22社が「すでにそうなっている」のに対して、他社で50%の利用度になるのは98・99年だとする回答が多い。
表4 電子メール利用度が50%になる時期 自社 世間 すでにそうなっている 22社 2社 1996・97年 15 17 1998・99年 9 19 2000〜10年 5 11 そうはならない 0 1 予想できない 3 5
さらに、「自社」と「世間」での50%到達時期をクロス表にすると、表5のようになる。自社が世間に先行するとしたのが30社もあるのに対して、同等が13社、遅れるとするのは4社に過ぎない。このような傾向は、電子メールだけでなく、他の対象技術でもすべて同様であった。 すなわち、先行企業であることを調査側も回答側も認めている企業ですら、電子メールの全社的な普及度は50%以下なのである。それを考慮すれば、実際の普及度はもっと低いと考えられる。問題認識で指摘したように、巷の調査での普及度の値は、高いほうへ傾いていると思われる。
表5 50%達成時期の自社と世間のクロス表 自 社 すでに 96-97 98-99 2000- すでに 1= 1− 世 96-97 6+ 8= 3− 98-99 11+ 4+ 3= 間 2000- 4+ 2+ 2+ 1= ならない 1+ (+は自社先行、=は同時、−は自社遅れ)
3.3 アンケートでの工夫 アンケート調査では、調査の仕方により結果が変わることはよく知られていることである。本調査では、質問を工夫することにより、比較的実態に近い状況を得ることができた。
? 回答率 本調査では、回答者が会員であり、62%の高回答率を得た。郵送によるアンケート調査では、導入している企業からの回答は多いが、そうでない企業は回答をしない傾向がある。そのため、巷の調査のような回答率が低いアンケート調査の結果は、普及度が高いほうに偏る傾向がある(注3)。
? 調査対象 大企業では情報システム部門を分離していることが多い。そのために、情報子会社での状況を回答することが考えられる。情報子会社が最新情報技術を導入しているのは...