救護施設は、身体上又は精神上著しい障害があるために日常生活を営むことが困難な要保護者を入所させて生活扶助を行う生活保護法に基づく施設であり、重複障害のある者やアルコール依存症者など様々な障害疾病を持つ者が生活を営む施設である。2014年4月から障害者総合支援法の地域生活移行支援対象者に救護施設入所者も含まれることとされ、救護施設入所者の地域への移行は喫緊に取り組むべき課題となっている。そこで、本研究は、埼玉県内の救護施設全入所者の生活実態を把握するとともに、地域生活移行の課題を明らかにすることを目的とした。その調査研究結果の概要を発表するもの。
救護施設入所者の現状と課題
についての研究
-地域生活移行の視点から-
はじめに 【救護施設とは】
� 身体や精神に障害があり、経済的な問題も含めて
日常生活を送るのが困難な人が、生活するための
生活保護法第38条を根拠とする施設
� 救護施設入所者は、他の障害者施設と異なり、障
害種別によって限定されていない。
社会福祉士 猪野塚 将
勤務先 埼玉県社会福祉課
� 重複障害のある者、統合失調症のある者などが生
活する総合福祉施設としての機能を持つ。
研究の目的と意義(1)
研究の目的と意義(2)
� 精神障害者の地域生活移行が推進される中、救護施設入
所者の地域移行は進んでいない状況にある。
� 平成26年3月まで、救護施設入所者は障害者総合支援法
による地域移行支援のサービス提供を受けることができな
かった。
� 平成26年4月から同法の地域移行支援対象者に救護施
設入所者も含まれることとされた。
� 複数の先行研究から救護施設は、時代の要請に応じ、
機能と役割を変化させてきたことが明らかとなった。
� しかし、施設入所者個々人の生活実態に焦点を当てた
文献的研究はほとんど確認できなかった。
� 入所者の尊厳を重視した個別支援の必要性や制度の
谷間にある入所者の生活実態を把握し、地域生活移行
の課題を明らかにすることは、入所者の希望に沿った支
援に繋がる一助となる。
施設入所者の地域生活への移行は
喫緊に取り組むべき政策的課題!
� そこで、本研究では埼玉県内の救護施設の全入所者を
対象に、施設生活の実情を把握するとともに、地域生
活移行の課題の検証を目的とする。
2 研究の流れ
� 第1研究:施設入所者に対する資料調査の実施
全施設入所者の施設処遇記録台帳とアセスメント
票やニーズ整理票など個別支援計画から入所者の
ADLや入所期間などのデータを集計、分析し、地域移
行上の阻害要因を明らかにする。
� 第2研究:施設職員に対する面接調査の実施
施設関係者に対し、施設運営上の課題や地域移
行への取組状況等について面接調査を実施し、量
的な資料研究を補完する。
3 第1研究 救護施設入所者に対する調査
-個別記録の整理・分析-
� 調査方法
施設の入所者処遇記録台帳、アセスメント表、ニーズ整
理表など個別支援計画から地域移行に関連する項目を調
査した。
� 調査対象
埼玉県内の二つの救護施設の全入所者 256人
� 調査項目
選定に当たっては、厚生労働省保護課長通知第7の
78及び同課事務連絡の居宅生活移行の判断項目を参
考にした。
(1)性別
入所者の男女比は男54.7%、女45.3%となっている。
男性
女性
計
人数
140人
116人
256人
割合 (全国平均)
62.4%
37.6%
100.0%
54.7%
45.3%
100.0%
(2)年齢構成
入所者の現在年齢は65歳以上の高齢者の割合が55.7%となっている。
入所者の年齢構成
20歳未満
20歳以上~30歳未満
30歳以上~40歳未満
40歳以上~50歳未満
50歳以上~60歳未満
60歳以上~70歳未満
70歳以上~80歳未満
80歳以上
計
65歳以上
平均年齢
人数
割合
n=256
0%
0%
0%
5%
15%
39%
32%
8%
100%
0
1
1
13
39
100
81
21
256
142
66.5 -
55.7%
・全国の高齢者の占め
る 割 合 は、49.0 % 1) で
あり、県内施設より6.7
%高い状況となってい
る。
・入所時の年齢は60歳
以上~70歳未満が最
も多くなっている。
出典:H25全国救護施設実態調査報告
(3)入所期間
� 入所期間は、1年以上~5年未満が23.0%と最も多くを占め、5年以
上~10年未満、15年以上~20年未満と続いている。平均入所期間は
19.5年となっている。入所期間の長期化が入所者の高齢化を押し上げ
ていることが窺える。
3入所期間
1年未満
1年以上~5年未満
5年以上~10年未満
10年以上~15年未満
15年以上~20年未満
20年以上~25年未満
25年以上~30年未満
30年以上~35年未満
35年以上~40年未満
40年以上~45年未満
45年以上~50年未満
50歳以上
計
人数
21
59
28
9
23
14
21
16
20
20
22
3
256
n=256
割合
8.2%
23.0%
10.9%
3.5%
9.0%
5.5%
8.2%
6.3%
7.8%
7.8%
8.6%
1.2%
100.0%
入所期間計 平均入所期間
5001.3
19.5
入所期間
1年未満
8.2%
1年以上~5年未満
5年以上~10年未満
10.9%
23.0%
10年以上~15年未満
3.5%
15年以上~20年未満
9.0%
20年以上~25年未満
5.5%
25年以上~30年未満
30年以上~35年未満
6.3%
35年以上~40年未満
40年以上~45年未満
45年以上~50年未満
50 歳以上
1.2%
8.2%
7.8%
7.8%
8.6%
0.0%
5.0%
10.0%
15.0%
20.0%
25.0%
(4)入所前の状況
� 入所前の居住状況は在宅が44.1%を占め、精神
科病院が27.7%となっている。知的障害や精神疾
患のある生活保護受給者で居宅生活が困難な者
の受け皿施設として機能している。
入所前の状況
1 在宅
2 救護施設以外の保護施設
3 身体障害者施設(旧)
4 知的障害者施設(旧)
5 精神障害者施設(旧)
6 児童福祉施設
7 その他の福祉施設
8 一般病院
9 精神科病院
10 野宿生活
11 行旅病人
12 無料低額宿泊所
13 リハビリテーションセンタ ー
14 その他
計
人数
割合
n=256
44.1%
0.4%
0.4%
1.2%
2.0%
5.1%
0.8%
10.5%
27.7%
2.0%
0.4%
2.0%
0.4%
2.0%
100.0%
113
1
1
3
5
13
2
27
71
5
1
5
1
5
256
(5)入所者の障害状況
� 入所者の障害状況については、障害者手帳の取得又は障害年金を受給
しているなど、入所者の9割以上が何らかの障害を有し、とりわけ精神障
害をもつ者が53.9%となっている。重複障害の入所者は全体の22.7%を
占めている。
入所者の障害状況
36.7%
24.6%
40.0%
35.0%
30.0%
25.0%
20.0%
15.0%
10.0%
5.0%
0.0%
9.0%
11.3%
5.5% 5.5%
5.5%
0.4% 1.2% 0.4%
身体障害
知的障害
精神障害
単一障害
重複障害
人数
割合
人数
割合
52
107
138
180
58
n=256
20.3%
41.8%
53.9%
70.3%
22.7%
(6)手段的ADLの状況(金銭管理)
小遣いの管理状況について施設側が全て対応している者が113名、
44.1%と半数近くを占める。反面、金銭の計算ができ使い道を考えながら
自身で計画的に小遣いを管理できる者は53名、20.7%となっている。
金銭管理
1自立
2一部介助
3全介助(施設対応)
計
人数
割合
53
90
113
256
20.7%
35.2%
44.1%
100.0%
金銭管理
44.0%
21.0%
自立
一部介助
全介助(施
設対応)
35.0%
(7)自立生活の希望の有無
� 何らかの自立生活を希望する者は、28名おり、平均年
齢は59.3歳で、平均入所期間は8.0年であった。年齢、入
所期間とも全入所者の平均が66.5歳と、19.5年であるこ
とから、年齢では7.2歳若く、入所期間では11.5年下回っ
ている状況であった。
� 28名のうち、一人暮らしを希望する者は16名いることが
明らかとなった。これらの者の平均年齢は、55.5歳、平均
入所期間は7.4年であることから、全入所者の平均との差
は年齢が11.0歳、入所期間では12.1年と、何らかの自立
生活を希望する者よりも年齢は若く、入所期間も短い状
況であった。
一人暮 らしを希望 する者の状況一覧
16/256
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
N
O
P 平均 全入所
者平均
2
2
2
1
1
1
1
2
1
2
1
1
1
1
1
1 -
-
42.4 43.4 44.0 46.0 51.4 57.2 62.1 64.2 66.0 66.8 45.0 55.3 74.4 46.0 54.1 70.1
55.5...