日本大学通信教育部
2019~2022年度 リポート課題集
『方丈記』 『徒然草』 は 「随筆文学」 か。平安時代の 『枕草子』や近代の「随筆」作品、あるいは「評論」の文
学伝統などとも比較し、そのジャンル概念をめぐる問題点について論述しなさい。
本レポートの目的は、随筆文学というジャンルを多角的に精査し、『方丈記』
と『徒然草』が随筆文学に属するか否かを考察することである。
平安時代が終わり鎌倉時代に入ると、貴族達は政治経済の中心から遠ざかった。
こうして不安と失望を抱えながら生きる貴族達の中から、俗世を離れる者が出現
することになる。遁世者と呼ばれる彼らは、現実から一歩身をしりぞいて、批判
的に人生社会を眺め渡した。
『方丈記』は、鴨長明が日野山の奥に閑居して孤独な生活を営みつつ、世相を
眺め、自己の境涯を語った作品であり、また、著者が実際に体験した五大災害
(大火、竜巻、遷都、飢餓、地震)の様子が描かれ、現在では重要な歴史資料とし
ても使われている。作品全体には人間の儚さや虚しさなど無常観が滲み出ながら
も、現実を鋭く受け止めようとしている姿勢も見出される。
吉田兼好の『徒然草』は、『方丈記』に比べて芸術的趣味がより濃厚であり、
遁世者にとっては、あることが美しいのではなく、ないことが美しいのだという
兼好の思想が伺える。貧粗・不足のなかに心の充足をみいだそうとする意識、閑
寂な中に、奥深いものや豊かなものがおのずと...