―富士写真フィルムの経営戦略―
はじめに
本稿では、「市場シェアを占めており成功するはずなのに、失敗した」事例としてカメラ市場におけるデジタルカメラへの変革でシェアを失った企業について論じていく。カメラ市場においては、安価のデジタルカメラの登場以来、需要がフィルムカメラからデジタルカメラへ移った。それにより、各メーカーのシェアが大きく変化した。ここでは、富士写真フィルム株式会社の事例について論ずる。
環境の変化
Ⅰ・デジタルカメラの需要推移
1995年に初めて個人向け市場に発売されたデジタルカメラであるが、2000年に出荷額でデジタルカメラを抜き、2002年の世界出荷額は6000億円にまで達した。(図1)また、カメラ映像機器工業会の統計によれば、2004年のフィルムカメラの国内出荷台数は62万台、対してデジタルカメラは854万台を記録している。その伸び率を見てもフィルムカメラは前年比▲約20%であるのに比べ、デジタルカメラは前年比+約60%と驚異的な普及ぶりを見せている。
これまでは、カメラメーカーが主導権を握っていたカメラ市場であったが、デジタルカメラの登場によって大きく変革がもたされたと言えるだろう。
(図1)デジタルカメラ出荷台数の推移
出典:日本カラーラボ協会(2005年版)
Ⅱ・デジタルカメラ市場への新規参入
カメラ市場の勢力図が大きく代わっていく中で、キーデバイスを持つ電機メーカーが急速に力を伸ばしてきている(図2)
従来のカメラ構造においては、光学レンズの技術を持つカメラメーカーが主導権を握っていたが、デジタルカメラを構成する電子部品の中でCCDや半導体、高画質液晶などのキーデバイスは欠くことができないものである。これらのキーデバイスの技術に強みをもつソニー、松下などといった電機メーカーは自社の開発力と生産力を武器に、カメラ市場への新規参入をしていった。
デジタルカメラの場合、製造原価の3分の1が半導体を見られており、特にカメラの目となるCCDはメーカー独自の技術を駆使した高画質化に直結している。そのCCDを大量に供給できるのはソニー、シャープなど数社に限られているのが実情である。このような技術的背景をもとに最近ではカメラ市場におけるシェア争いでもメーカーの台頭が目立ってきている。
脱成熟をリードする可能性が高いケースとして垂直統合した企業が成熟段階で機能重視型戦略を探る場合があることが挙げられる。デジタルカメラのケースについても実用化の目処が立った移行時期、製品を構成する個々の図品を総合的に開発・生産することができる電機メーカーはそのような意味でも強みを発揮できることから、新規参入者であっても限愛のような躍進ができたものと思われる。
(図2)デジタルカメラ業界シェア
出典:BCNランキング(2005年)
3.富士写真フィルム
富士写真フィルムは2003年頃までデジタルカメラのトップシェアを維持し、2003年3月期決算では、期末のキャッシュフローが4100億円となる好調な経営をしていたが、その後急激にシェアを落とした。これは技術も製品もドッグイヤーで寿命が短くなる中で、研究・開発分野での遅れがあったことに起因する。右肩上がりの時代につくられた業務プロセスや研究開発マネジメントを、変化の早い時代に必要な重複のない、無駄のない、迅速に動ける合理的なプロセスに変革できなかった。さらに、フィルムカメラ、デジタルカメラ共に需要が見込めたフィルム事業(これは富士写真フィルムの中心事業であった)、プリントアウト分野でデジタルミニラ
―富士写真フィルムの経営戦略―
はじめに
本稿では、「市場シェアを占めており成功するはずなのに、失敗した」事例としてカメラ市場におけるデジタルカメラへの変革でシェアを失った企業について論じていく。カメラ市場においては、安価のデジタルカメラの登場以来、需要がフィルムカメラからデジタルカメラへ移った。それにより、各メーカーのシェアが大きく変化した。ここでは、富士写真フィルム株式会社の事例について論ずる。
環境の変化
Ⅰ・デジタルカメラの需要推移
1995年に初めて個人向け市場に発売されたデジタルカメラであるが、2000年に出荷額でデジタルカメラを抜き、2002年の世界出荷額は6000億円にまで達した。(図1)また、カメラ映像機器工業会の統計によれば、2004年のフィルムカメラの国内出荷台数は62万台、対してデジタルカメラは854万台を記録している。その伸び率を見てもフィルムカメラは前年比▲約20%であるのに比べ、デジタルカメラは前年比+約60%と驚異的な普及ぶりを見せている。
これまでは、カメラメーカーが主導権を握っていたカメラ市場であったが、デジタルカメラの登場によって大きく変革が...