優生保護法による優生思想と倫理
倫理とは、社会生活を送る上での一般的な決まり事で、人として守るべき道のことである。そのためには社会のルールとして法律や社会制度が必要とされる。それは人として生きるための正しい規範でなければならない。しかし近年は医療技術が進歩し、特に生殖医療は大きく変わり命の選択が可能となった。倫理の秩序といえる、法律や社会システムは医療の進歩に追いついていないと感じる出来事もある。例えば不妊治療に対する体外受精や代理母による出産。また出生前診断の結果、障害をもって生まれる可能性のある命の選別などである。命の選別とは人工妊娠中絶であるが、我が国では母体保護法により人工妊娠中絶は規制されている。人工妊娠中絶が認められるのは、「妊娠の継続が身体的、経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがあるものと、姦淫により妊娠したもの」である。法律の名の通り母体保護が優先されている。しかしこの母体保護法以前の優生保護法は、決してそうとは言えない。命の選別をどう考えるか、母体保護法の変遷と事例を踏まえながら優生思想と倫理について考えたい。
1.母体保護法の歴史と背景
母体保護...