講評
本稿は、ソクラテスがこだわり続けた「善く生きる」ということと、「魂の徳」と、「不正を働くこと」の関係性が考察できているとみなし、合格とします。「善美の事柄」とは、少しわかりにくい表現になっているのですが、要するに、「本当の意味で何が善で何が悪か、本当の意味で何が立派で何が憎いか」については誰も知らない、ということです。言い換えれば、善悪美醜の絶対的基準と言ってもいいでしょう。我々の人生は選択の連続ですが、もし(そういうものが存在するとして)それを知っていれば人生はきっとうまくいくことでしょう。しかし、現実はそうではありません。それゆえ、ソクラテスは人生を善くしようとする(幸福に生きる)ために「善美の事柄」を常に探求し続け、それによって少しでも倫理的に上昇することは、同時に「魂の徳」を身に付けるということになります。あなた自身は「魂の徳」を重視するでしょうか。それとも、お金や地位や名誉を重視して生きるのでしょうか。じっくり考えてみてください。
参考文献;「中公クラシックス出版 プラトン ソクラテスの弁明ほか 田中美和太郎 藤澤令夫訳」
1
①ソクラテスが告発された理由は、自身の哲学活動(何を探求し、何を行ったのか)によるものであり、その理由を述べる。また、ソクラテスが考える、自身が告発された理由を述べる。②ソクラテスが脱獄をせず、死刑を受け入れた理由を述べる。
①ソクラテスが、告発された理由はふたつある。ひとつ目は、最初の訴人からの訴えであり「ソクラテスは天上天下のことを探求し、弱論を強弁し、いらざる振る舞いを成し、かつ同じことを他人にも教えている。」であり、ふたつめは、後の訴人からの訴えであり、「青年に対して有害な影響を与え、国家の認める神々を認めず、別の神を信仰している。」である。
上記の訴状内容に対して、ソクラテスの考える自身の罪状は、「中傷」と「嫉妬」である。中傷と嫉妬を生み出した理由について下記に述べる。理由は、神託の意味(自身よりも知恵のある者はこの世に存在しない)を証明するために方々を歩き回り、様々な識者と話し合いをすることにより、自身よりも知恵を持つ人の存在を確認することで、神託の真偽を証明するためであった。
ソクラテスは、識者に実際に会い話をしたが、識者は共通してソクラテスよりもある分野においてより...