甲は乙に対してコピー機の賃借に関する代理権を授与した。乙はその代理権の範囲を超えて、甲の代理人として丙との間でコピー機を買い受ける契約を終結した。
乙の行為は賃借の代理ではなく売買契約の代理となり、代理権を欠くから甲に対して効果を生じない。
しかし、これでは代理権の存在を信じた丙は不測の損害を被ることになる。
そこで民法は、甲と乙との間に特別な関係がある場合には、代理権があったと同様の効果を認めることとした。これを表見代理という。つまり表見代理とは、本人と無権代理人との間に、相手からみて代理権の存在を推測させるような客観的事情のある場合につき、相手方の信頼を保護するために、代理権が存在していたと同様の効果を発生させる制度である。
広義の無権代理の中の特殊な場合を表見代理とし、表見代理に該当しない場合を狭義の無権代理とする考え方もある。しかし、明確な境界線があるわけではないので判例は、手方は表見代理の成立しうる場合であっても、それを主張しないで無権代理人の責任の追及ができるとしている(最判昭62・7・7)。
この表見代理には、代理権授与表示による表見代理(109条)、権限踰越による表見代...