『夫婦別氏論と戸籍問題』についての読書感想文
1 澤田省三 著 『夫婦別氏論と戸籍問題』 株式会社ぎょうせい 平成2年8月25
日 初版発行
2 我が国では「価値観の多様化」というコンセプトが乱用されている割に、価値観の多
様化の「需要」という現象が、とりわけ人々の意識の上でも法文化の面でも不十分である
と思われる。また、言うまでもなく近代の人権思想の基礎をなすのは個の尊厳の理念であ
り、その確立のために、人々には受益本位の「人権意識」から脱却するという意識改革が
求められていると同時に、国家にもまた、必要以上に個人の利益を正当化の根拠とするパ
ターナリスティックな規制の姿勢を避けることが求められる。その意味で、夫婦の氏とこ
れに関する問題の処理は、格好の試練を提供するものであるといえる。夫婦別氏論の背景
としては、女性の権利意識の高まり、働く女性の増加、固定的な性別役割分担意識の是正
に旧来の家族秩序の変化という状況が上げられる。婚姻による改氏が女性の職業と生活の
自立の障害になるという主張はまさにこの状況と深く関わっており、夫婦別氏論の主張と
は、夫婦同氏強制主義に基づく改氏と...