仮の救済――執行停止制度について
一 総説(民事訴訟との比較)
民事訴訟においては、現状を自己にとって有利に変更したい者がそれを求めて原告となるが、裁判が
長期化すると、被告側が有利になるため、かかる状況を改善することを目的として民事保全の手続が定
められている。これに対して、行政処分には公定力があり、法律関係の形成は行政処分によって変動し
た状態を基準としてなされる。よって、そのままにしておくと、行政側に有利な状態が固定化するおそ
れがある。
また、行政行為の場合には、自力執行が認められることもあり、私人の側には不利な状況がいっそう
進行していきかねない。したがって、行政処分の取消訴訟は、民事訴訟に比べて原告の権利利益を終局
判決前に仮のものとして保全する必要性が大きいといえる。
もっとも、行政事件は公益の実現という側面も有しているため、単に相手方私人の利益のみを考慮す
ることはできない。この点も、民事訴訟と異なる。
それでは、現行法上いかなる制度がとられているか。また、それは妥当かが問題となる。
二 執行停止制度
行政事件訴訟法は、公益の実現を重視し、取消訴訟の提起に...