この作品は、『DUBLINERS』という題名に思いが込められているように、アイルランドのダブリンのことが主として書かれている。『ダブリン市民』について、「わたしの意図は、わたしの国のモラル・ヒストリイの一章を書くことでした。その舞台にダブリンを選んだのは、その都市は麻痺(パラリシス)の中心だと思われたからです。」(桶谷秀昭『ジェイムズ・ジョイス』紀伊国屋書店.1994年.p.118)とジョイスが言っているように、否定態として存在しているアイルランドの「モラル・ヒストリイ」は、ジョイスにとって、精神的「麻痺」と同義であり、その「麻痺」を見つめることにより感じたものを、この作品の主題にしたのではないだろうかと思う。また、彼自身の生い立ちで実際に起こったことに類似した自伝的内容もたびたび登場し、この『EVELINE』にも同じことがいえる。
1904年に「自発的亡命」をしたジョイスは、その後もずっとアイルランドをひきずっていた。頑なにアイルランドの現実に固執してやまなかったのだ。『EVELINE』の主要な内容は、自分の慣れ親しんだhome, houseから出たいが出ることができなかったイヴリン像であった。イヴリンは、父から厳しく、また冷たくされるつらい苦しい生活から抜け出したくて恋人と駆け落ちをしようとしたが、結局慣れ親しんだhomeを捨てて出て行くことはできなかった。これは、亡命してもずっと故国のことを忘れることができなかったジョイス自身に似ていると思う。また、イヴリンが、暮らしに困らないし、周りには知り合った人がいると言っていた「家」については、「これが彼女にとっての牢獄であるのだ。」(鈴木良平『ジョイスの世界 モダニズム文学の解読』彩流社.1986年.p.52)という見解もあり、だからイヴリンは「家」から外に出ることをせず、いつもその牢獄の鉄格子である「窓」から、ただ外を眺めているだけだったのではないかと考えた。
EVELINEを読んで
この作品は、『DUBLINERS』という題名に思いが込められているように、アイルランドのダブリンのことが主として書かれている。『ダブリン市民』について、「わたしの意図は、わたしの国のモラル・ヒストリイの一章を書くことでした。その舞台にダブリンを選んだのは、その都市は麻痺(パラリシス)の中心だと思われたからです。」(桶谷秀昭『ジェイムズ・ジョイス』紀伊国屋書店.1994年.p.118)とジョイスが言っているように、否定態として存在しているアイルランドの「モラル・ヒストリイ」は、ジョイスにとって、精神的「麻痺」と同義であり、その「麻痺」を見つめることにより感じたものを、この作品の主題にしたのではないだろうかと思う。また、彼自身の生い立ちで実際に起こったことに類似した自伝的内容もたびたび登場し、この『EVELINE』にも同じことがいえる。
1904年に「自発的亡命」をしたジョイスは、その後もずっとアイルランドをひきずっていた。頑なにアイルランドの現実に固執してやまなかったのだ。『EVELINE』の主要な内容は、自分の慣れ親しんだhome, houseから出たいが...