一、問題提起
無権限者が直接本人名義の手形行為をした場合、すなわち代行方式で手形行為をした場合、この手形行為は無権限者が他人名義を冒用したものであるから偽造となり、無効であるとするのが従来の通説である。また、判例によれば、無権限者による代行方式の手形行為において、本人のためにする意思をもっていなかった場合は偽造であり、本人のためにする意思を持っていた場合は無権代理となって、いずれにしてもこの手形行為は無効であるとされている(最判昭43年12月24日民集22巻13号3382頁)。
では、そもそも、手形偽造とは何か、被偽造者の手形責任はどうなるか、明文の規定がないため、問題となる。
ニ、検討
1、手形偽造の意義
以上の通り、そもそも手形偽造とは何か、について議論があるところである。
思うに、判例のとおり、無権限者による手形行為でさらに本人のためにする意思がなかった場合は、いわば手形行為者が自己のためにする意思で手形行為を行なっているというべきであり、もはや他人による手形行為という概念でとらえるべきではなく、手形行為者自身の他人名義による手形行為といわなければならない。他人名義に...