一、両者の意義について
まず、手形法は、手形による請求を受けた者は、手形所持人の前者に対する人的関係に基づく抗弁(人的抗弁)をもって、所持人に対抗することができないとしている(手形法17条・77条1項1号、小切手法22条)。これを人的抗弁の切断という。
他方、手形上の権利が裏書によって移転される場合、裏書人が無権利者であれば、被裏書人は本来手形上の権利を取得することはできない。しかし、手形法は手形上の権利者が手形上の占有を失った場合に、手形を取得した所持人が、裏書の連続によりその権利を証明するときは、手形の取得に際して、悪意または重大な過失がない限り、手形を変換する義務を負わないとしている(手形法16条2項・77条1項1号、小切手法21条)。裏書の連続する手形の所持人は適法な所持人と推定されている(手形法16条1項・77条1項1号、小切手法19条)。そこで、かかる所持人から裏書によって手形を取得した者は、たとえ裏書人が無権利者であっても、手形上の権利を原始的に取得しうることを認めたのである。その結果、所持人は手形を返還する義務を負わず、手形の旧所持人は手形上の権利を失うに至る。...