境界性パーソナリティ障害
はじめに
境界性パーソナリティ障害は最近増えているパーソナリティ障害である。その増加理由は特に社会・歴史的背景にあるのではないか。また,これ以上発症させないために私たちはどうすればよいのだろうか。
第1章 境界性パーソナリティ障害
1.境界性パーソナリティ障害の定義
境界性パーソナリティ障害では、行動パターンや精神症状など広範囲な不安定さが特徴にあげられる。この中でも特に感情や自己イメージの不安定さが目立つ。
そこでDSM-Ⅳ-TRによって境界性パーソナリティ障害を提示しようと思う。町沢(1990:29)は以下に示される内容が境界性パーソナリティ障害にみられるものであると述べている。
①人に見捨てられるということを懸命に避けようとし,そしてまた見捨てられることの想像ですら件名に避けようとするものである。
②対人関係のパターンは,極端に理想化したかと思うと価値下げを行い,その揺れは大きいものである。
③同一性障害であるが,これは自己イメージや自己というものの感覚が顕著に,しかもいつも不安定である。
④自分に障害を与えるような強力な衝動性をもつ。
⑤再三にわたる自殺の行動や身振り,あるいはまた自分を切る行動の恐れなどがみられる。
⑥感情の不安定さは,気分に対して反応性が顕著に高いことから起こるものである。
⑦慢性的な空虚さをもつ。
⑧不適切で強い怒り、あるいは怒りをコントロールすることが困難である。
⑨一過性のストレスに関連した妄想的な考えや深刻な難解的症状がある。
以上の9つのうち少なくとも5つあるということが,ボーダーラインの診断基準とされている。
2.原因
今回は特に発達期にかけての原因を中心に考えようと思う。境界性パーソナリティ障害では,発達期に性的もしくは身体的虐待を受けたと訴える患者が多いことが知られている。
林(2005:51)は,「この発達期における性的虐待や身体的虐待が,患者の行動モデルとして作用して,患者の衝動的に暴力に走る傾向を助長し,パーソナリティ障害を形成している」と述べている。これは,発達上に重要な自己概念の確立を妨げることがパーソナリティ障害を形成しているのだと私は考えた。社会での自分への位置づけは,思春期前に安定した基本的自己像が成立していないと,社会的自己の確立は難しいのである。基本的自己像の最も基礎的な段階では,母子関係が中心になる。乳幼児期、乳児にとって愛情や注目を集めるといった欲求を,すべてを与えてくれるような愛情深い母親によって無条件にしかも一貫として満たされるとすると母親を信頼することを学ぶ。また,乳児と母親の経験が,一貫性のなさや不安で特徴付けられるのなら,乳児は母親を信頼しないことを学び,その結果,不信の態度を身に付ける。よって,乳児期における最も重要な人物は,一貫として乳児を養育してくれる人である。乳幼児から,自己概念の発達が始まる。十分な満足と安全感を経験すれば、乳児が自分自身を価値のある人間と思い,‘良い私’という自己概念を発達させ始める。だが逆に適切な対応がされないときには‘私ではない’という自己概念を発達させることとなる。このように,母親の存在というのは自己概念の発達においてとても重要である。養育される側は,養育する側の影響をとても受けるということがわかる。
このことから,虐待という行動は子どもたちの安全感を与えないということになり,不安定な‘私ではない’という自己概念を発達させる。この‘私ではない’という自己概念が,感情の不安定さや慢性的な空虚感などの境界性パ
境界性パーソナリティ障害
はじめに
境界性パーソナリティ障害は最近増えているパーソナリティ障害である。その増加理由は特に社会・歴史的背景にあるのではないか。また,これ以上発症させないために私たちはどうすればよいのだろうか。
第1章 境界性パーソナリティ障害
1.境界性パーソナリティ障害の定義
境界性パーソナリティ障害では、行動パターンや精神症状など広範囲な不安定さが特徴にあげられる。この中でも特に感情や自己イメージの不安定さが目立つ。
そこでDSM-Ⅳ-TRによって境界性パーソナリティ障害を提示しようと思う。町沢(1990:29)は以下に示される内容が境界性パーソナリティ障害にみられるものであると述べている。
①人に見捨てられるということを懸命に避けようとし,そしてまた見捨てられることの想像ですら件名に避けようとするものである。
②対人関係のパターンは,極端に理想化したかと思うと価値下げを行い,その揺れは大きいものである。
③同一性障害であるが,これは自己イメージや自己というものの感覚が顕著に,しかもいつも不安定である。
④自分に障害を与えるような強力な衝動性をもつ。
⑤再三にわたる...