ディズニー映画「シンデレラ」とジェンダー

閲覧数9,290
ダウンロード数32
履歴確認

    • ページ数 : 5ページ
    • 全体公開

    資料紹介

    「シンデレラって、自分からは何もしないでしょ?」
    ディズニープリンセスであるシンデレラは、受動的な女性の代名詞であるかのように語られてきた。しかし実際の彼女は、そのような通説とは異なり、現代のビジネスにも通用するような積極的なパーソナリティを持ち合わせた女性なのである。
    (2016年1月執筆)

    資料の原本内容

    「ディズニー映画『シンデレラ』とジェンダー」
    ディズニー映画のジェンダー差別的要素が指摘されるようになって久しい。近年、女性の社会
    進出が急速に進み、その中で「王子様を夢に見る」だけの受動的なディズニープリンセスは、幼
    い少女たちに夢を与えるどころか、彼女たちの自発的な行動を妨げるものであると非難の対象と
    なった。そこで、本論文ではディズニープリンセス映画の代表作品でもある「シンデレラ」を取
    り上げ、その作品は子供たちにジェンダー差別的視点を与えるものであるのかを考察する。あら
    かじめ結論を述べるなら、
    「シンデレラ」は少女たちに受動的な人生を推奨しているのではなく、
    自発的・積極的な行動の必要性を説いている。なぜなら「シンデレラ」という物語の核は「目標
    と忍耐力を持ち、絶えず行動すれば、必ず成果は表れる」というものであり、シンデレラという
    人物自身も積極的なパーソナリティを備えているからである。この結論を述べるために、まず第
    一章で、
    「シンデレラはジェンダー差別的視点を喚起する」という通説への疑問を投じる。第二
    章では「シンデレラ」という物語を考察し、作品を通してどのようなメッセージを伝えているの
    かを分析し、根拠として提示する。そして、第三章でシンデレラという人物のパーソナリティを
    作品から概観し、通説との相違点を述べる。以上から「シンデレラ」という作品は、ジェンダー
    的視点を観客に与えるものではないということを結論で述べる。

    Ⅰ.「シンデレラはジェンダー差別的視点を喚起する」という意見への反論
    「そして二人は、いつまでも幸せに暮らしました。」という
    のは「シンデレラ」をはじめとした、ディズニープリンセス映
    画のフィナーレを飾る定型文である。(図 1)王子様との結婚を
    夢に見て、その夢を叶えることこそが至上の幸福であるといっ
    た描き方は、現在では非難の的となっている。「物語の中でそ
    の夢が実現するのは他人の力によってである。ディズニープリ
    ンセスとは女の子にいわば他力本願で受動的な人生を送るい
    い見本となっているといえる。
    」1)という批判は、その一例であ
    る。これらの非難が起こる理由として、第一に、非婚化が進む

    図1「シンデレラ」のラストシーン

    現代においては、結婚をしないという選択肢をはじめとした、
    多様な生き方が受容されるべきであるという価値観が主流なのである。第二に、女性の社
    会進出が進み、女性はもはや男性に幸せにしてもらうだけの受動的な存在ではないという
    考えが広まっているのだといえる。
    1

    確かに、社会の変化に応じて変遷を重ねてきたディズニー映画であるが、近年の「プリ
    ンセスと魔法のキス」(2009)や、「塔の上のラプンツェル」(2010)といったディズニープリ
    ンセス映画も、決まって結婚という形で結末を迎えている。そのような表現が「女性の幸
    せは結婚である」という価値観を子供に植え付ける可能性は十分考えられるという点は認
    めることができる。しかし、その結末に至るまでには様々な過程があるということを見逃
    してはならない。彼女たちは果たして映画の中で何も行動をせず、ただ受身の姿勢で王子
    様を夢に見続けてきたのだろうか。ディズニープリンセス映画の代表作品として語られる
    「シンデレラ」の映画を用いて考察していく。

    Ⅱ.「シンデレラ」の物語と「夢」
    「シンデレラ」という作品は、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ製作
    の長編映像第 12 作目であり、公開年は 1950 年である。当時はウォルト・ディズニーも存
    命であり、彼もこの作品の製作に深く関わっていた。66 年前の作品であるため、当時の価
    値観は現代のものとは異なっていることは容易に想像できる。しかし、この作品は現代で
    も愛され続け、今でもディズニーを代表する作品としての地位を保っている。
    「シンデレラ」と聞いて、何を想像するだろうか。
    「可
    哀想な女の子が魔法でプリンセスになる」といったス
    トーリーに関するもの、あるいはガラスの靴やカボチ
    ャの馬車といったキーアイテムが思い浮かぶかもしれ
    ない。しかし、実際に映画を見てみると「夢」という
    言葉が多用されていることがわかる。この夢こそが本
    作品のキーワードなのである。
    「シンデレラ」を代表す
    る「夢はあなたの心が作る願い」(邦題:夢はひそかに)
    という曲名にも、夢という単語が含まれており、
    「信じ
    ていれば夢は必ず叶う」という、ディズニーで頻繁に
    使用されるフレーズも彼女の言葉である。
    図 2 劇中歌「夢はひそかに」

    2

    シンデレラは「内容を話せば夢は叶わなくなる」という論理を持
    っているため、この夢の内容を最後まで明かすことはない。しかし、
    後に男性(実は王子であるが、シンデレラは気がついていない)とダン
    スをする際に「これが、私が夢に見てきた奇跡なのだ」と歌ってい
    たことから、
    「愛を知ること」が彼女の夢ではないかと考察すること
    ができる。あるいは、フェアリーゴッドマザーという魔法使いによ
    って一晩だけドレスや馬車を与えられた際にも「まるで夢みたい。
    素晴らしい夢が叶ったのよ」と口にしており、彼女の夢は「辛い現
    実から抜け出すこと」であったとも捉えることができる。ここで注
    意するべき点は、彼女は「王子様と出会うこと」や「結婚をするこ
    と」を夢に見てきてはいなかったということである。(図 3)この
    図 3 王子だと気づかないシンデレラ

    ことから、シンデレラが、ただ王子様や結婚に憧れていただけの

    存在ではなかったことが理解できる。
    「おとなしく,かわいく従順でいればいつかは王子様
    がやってくる,そういうストーリーになっている。シンデレラは自分からは何も動こうと
    せず,待っているだけの受動的な存在である。」2)といった批判は枚挙に暇がないが、実際
    に本編を観てみると、これらの批判に対する疑問が生じてくる。
    一方で「愛を知ること」は、王子がいるからこそ叶えられる夢で
    あり、「現状の打破」はフェアリーゴッドマザーの魔法によって叶
    えられた夢である。つまり、シンデレラ自身の手で勝ち取ったもの
    ではない、他者から与えられたものであるという批判が想定される。
    そこで、彼女の夢を叶えるために活躍したネズミたちの台詞や、フ
    ェアリーゴッドマザーの台詞を引用したい。舞踏会へ行くことを許
    可されたシンデレラだが、彼女は舞踏会の場に相応しいドレ
    スを持ち合わせてはいなかった。そんなシンデレラのために

    図 4 「あなたの夢は必ず叶う」と歌うネズミたち

    ドレス作りを手伝ったのがネズミたちであり、彼らは先ほどの「夢はあなたの心が作る願
    い」を、アレンジして歌いながらドレスを仕上げていく。「たとえどんなに辛くても、信じ

    続けていれば、あなた(シンデレラ)の夢は必ず叶う」と歌うネズミたちから、彼らはシンデ
    レラの努力を認め、彼女の夢は叶えられるべきだという思いから、ドレス作りを進めてい
    たと考えられる。また、フェアリーゴッドマザーが「私は夢を信じる者の前にしか現れな
    い」と述べていたことからも、シンデレラ自身の意志の強さを評価していたことが伺える。
    つまり、仮にシンデレラが何も行動をせずに、ただ空想にふけるだけの生活を送っていた
    3

    ら、このようなネズミたちやフェアリーゴッドマザーの助けはなかったということが想像
    できる。
    「プリンセスが恋にあこがれ,ただ受け身で待ちつつ願っていたら,奇跡的に叶う。」
    3)といった「シンデレラ」に対するこのような批判は数多く存在するが、彼女がそのように

    恋に憧れて王子様を待っていただけの存在であったとはいえないのである。

    Ⅲ.シンデレラのパーソナリティ
    シンデレラはしばしば悲劇のヒロインや、受動的な女性の代名詞として用いられる。し
    かし彼女のパーソナリティを改めて見てみると、積極性が評価される現代においても必要
    なスキルが数多く備わっていることが伺える。
    シンデレラは夢を持つことで、日々の辛い労働を乗り越えること
    を可能にしている。それは労働の始まりを意味する鐘の音を聞いた
    際に「時計ですら私に命令するのね。でも私が夢を見ることは、誰
    にも止められないわ」とつぶやく事から理解できる。自分自身の夢
    を心の拠り所として、いつかその夢が叶うと信じ続けていれば、夢
    は現実になると自分に言い聞かせているのである。辛い立場に置か
    れていたとしても、現実と向き合い、決して夢を見失わない彼女は、
    頭は夢を見ていても、足は地についている女性であるといえる。彼
    女のそのような姿勢から、夢を叶えたいという「目標への強い意
    志」や、つらい状況を耐えることのできる「忍耐力」、そして自分

    図 5 モチベーションの源泉としての夢

    に言い聞かせることで「高いモチベーションを維持し続ける」と
    いったスキルを伺い知ることができる。
    「チャンスを逃さない」というのもシンデレラの注目すべきパーソ
    ナリティのひとつである。王子の結婚相手を選出するために「国中の
    全ての女性を舞踏会に招く」という通達がなされた際、下働きである
    彼女は「私にも舞踏会に行く権利があります」と継母に自分の権利を
    主張した。このエピソードは彼女の行動力の表れであると捉えること
    ができる。ただ黙って辛い現状に甘んじるのではなく、夢を叶えるチ
    ャンスが訪れた際は、絶対にそれを逃すことはしないのである。その
    姿勢はガラスの靴が合う女性を探すために、太閤が屋敷を訪れた場面
    からも伺い知ることができる。継母の陰謀によって部屋に閉じ込めら
    図 6 シンデレラのクラ...

    コメント0件

    コメント追加

    コメントを書込むには会員登録するか、すでに会員の方はログインしてください。