微生物学・微生物検査学実習
インフルエンザ菌・嫌気性菌の検査
嫌気性菌の検査
【GAM培地】
GAM寒天培地は還元剤として肝エキス末、L‐システイン塩酸塩、チオグリコール酸ナトリウムを含む。これらは遊離酸素を還元し、酸化還元電位をマイナス側に維持する。
【嫌気培養】
嫌気培養には遮蔽された空間の酸素を水素ガス発生袋と触媒を用いて水にして除去する方法と直接吸収してしまう方法とがある。室温で働く触媒(カタリスト)は嫌気性菌の発生するガスや水分によって不活化されるので加熱により再活性化する必要がある。メチレンブルーの指示薬片(酸素分子がなくなると青から白に変化する)により嫌気性の環境が本当にできたか否かを確認する。また多くの嫌気性菌の発育には嫌気性であることに加えて高濃度の炭酸ガスが必要で、炭酸ガス5~10%のもとに培養する。酸素分子および酸素の還元物質であるスーパーオキサイドアニオン(superoxide anion: O2‐)、過酸化水素(H 2O 2)およびハイドロキシラジカル(hydroxyl radical: OH‐)は、細胞の酵素系や遺伝子などに損傷を与える。酸素を利用する生物は、通常、それらの解毒作用のあるスーパーオキサイドディスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)、カタラーゼ、glutathione、glutathione reductaseなどを有している。SODは有害なO2‐の濃度を減少させる。嫌気性菌にはSODやカタラーゼを欠如しているものが多い。
【培養性状、グラム染色、芽胞染色、カタラーゼ試験、耐熱試験】
耐熱試験で使用したチオグリコレート培地に含まれるチオグリコレート酸は酸化還元電位を下げる還元物質である。上層は赤色の酸化型レザズリンで下層は黄色の還元型レザズリンである。レザズリンは嫌気性環境を確認するための指示錠(酸素分子がなくなると赤から無色に変化する)としても利用されている。この培地で上層が赤色の酸化型レザズリンになっているのは大気中の酸素に接しているためであると考えられる。よって嫌気性菌は一般に下層で発育する。またこの培地を滅菌後すぐに水冷したのは脱気させて培地中に溶存している酸素を除くためである。
<結果>
A B C D 集落所見 遊走・鋸状 菊花状 大集落 小集落 グラム染色性 グラム陽性 グラム陽性 グラム陰性 グラム陽性 形状・形態 桿菌・太鼓バチ状 桿菌 桿菌 球菌 スケッチ 芽胞染色性 端在性・円形 × × × スケッチ カタラーゼ試験 × × 弱陽性 × 耐熱試験/非加熱 下層に発育 × わずかに発育 下層に発育 耐熱試験/加熱 下層に発育 × × × <考察>
[A ; C.tetani]
鑑別点;グラム陰性嫌気性桿菌、端在性芽胞、太鼓バチ状、遊走(+)、耐熱試験(+)、カタラーゼ試験(-)
多くは運動性があり通常の寒天濃度の寒天培地上では遊走しフィルム状発育をする。遊走する集落でグラム染色により端在性の大きな円形の芽胞を有し、いわゆる太鼓バチ状とよばれる特徴ある形態を呈する。芽胞を形成できる嫌気性桿菌はすべてClostridiumに分類され、Clostridiumの同定の際には菌体中に形成される内生胞子の位置が重要である。Clostridiumはカタラーゼ陰性でBacillus(好気性芽胞形成菌)との鑑別点になる。Clostridiumはグラム陽性菌に類似した細胞壁構造を有している。しかしグラム染色標本ではグラム陰性に見えることは珍しくな
微生物学・微生物検査学実習
インフルエンザ菌・嫌気性菌の検査
嫌気性菌の検査
【GAM培地】
GAM寒天培地は還元剤として肝エキス末、L‐システイン塩酸塩、チオグリコール酸ナトリウムを含む。これらは遊離酸素を還元し、酸化還元電位をマイナス側に維持する。
【嫌気培養】
嫌気培養には遮蔽された空間の酸素を水素ガス発生袋と触媒を用いて水にして除去する方法と直接吸収してしまう方法とがある。室温で働く触媒(カタリスト)は嫌気性菌の発生するガスや水分によって不活化されるので加熱により再活性化する必要がある。メチレンブルーの指示薬片(酸素分子がなくなると青から白に変化する)により嫌気性の環境が本当にできたか否かを確認する。また多くの嫌気性菌の発育には嫌気性であることに加えて高濃度の炭酸ガスが必要で、炭酸ガス5~10%のもとに培養する。酸素分子および酸素の還元物質であるスーパーオキサイドアニオン(superoxide anion: O2‐)、過酸化水素(H 2O 2)およびハイドロキシラジカル(hydroxyl radical: OH‐)は、細胞の酵素系や遺伝子などに損傷を与える。酸素を利用する生物は...