近大姫路大学通信 国語科指導法Ⅱ(日本語) 設題2

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    資料の原本内容

    設題2

    文部科学省「『学校教育におけるJSLカリキュラムの開発について』(最終報告)小学校編」を参考にして、以下の点についてまとめなさい。

    ①JSLカリキュラムの種類とそれぞれの特徴

    ②AU(「Activity Unit」、活動の単位)とは何か

    ③国語科AUが言語能力別の分類になっているのはなぜか
    JSLカリキュラムでは、大きく2つのタイプを想定している。一つは、「トピック型」JSLカリキュラムであり、もう一つは「教科志向型」JSLカリキュラムである。「トピック型」JSLカリキュラムとは、具体物や直接体験という活動を通して、しかも他の子どもとの関わりを通しながら、日本語で学ぶ力を育成することが主な目的である。つまり、特定の教科というよりも、各教科に共通の学ぶ力の育成を目指す。

    これに対して、「教科志向型」JSLカリキュラムは、各教科固有の学ぶ力の育成を目指すものである。各教科には特有の学び方があり、教科の学習のためにはその学び方を具体物や体験を支えにして習得していく必要がある。ここで「教科志向型」と呼ぶのは、このカリキュラムを教科学習の前提として位置づけ、かつその学習過程に特徴を持たせたいためである。「教科志向型」JSLカリキュラムで重要なことは、直接体験や既有知識から、教科の知識・概念・考え方の理解に至る段階において、実際の学習の中で一人一人の子どもの理解に応じたきめ細かな支援(学習支援、日本語支援)や指導を行うことである。

    「トピック型」JSLカリキュラムと「教科志向型」JSLカリキュラムには、一方が他方の準備となるような「積み上げ」的な関係はない。この2つを併行して実施したり、相互乗り入れしたりすることも可能である。

     「トピック型」JSLカリキュラムは、子どもたちが特定のトピック(たとえば「水道水はどこからやってくるのか」)を探求する共同的な学習活動に日本語を用いて参加できるようにすることを目的にしている。この学習活動は次の3つの局面からなると考えている。「体験の具体化」→「探求の体系化」→「発信の客観化」という3つの局面から成り立っている。つまり、自分の「体験」を日本語で表現し、それを出発点にして他の子どもたちや教師・指導者と共に「探求」を進め、その成果を日本語で「発信」する。「トピック型」JSLカリキュラムは、このような学習活動に子どもたちを参加させていくことを目指すのである。これらの学習やカリキュラムづくりを支援するツールとして「AUカード」を提案する。AUは「Activity Unit」(活動の単位)の略であり、学習活動を構成している一連の下位活動である。授業の中で展開する子どもたちの学習活動はこうした単位的な下位活動が数多く組み合わさって成り立っていると考えられる。このような単位的な下位活動(AU)と、それを行うために必要な日本語表現のバリエーションを組み合わせ、一枚のカードにしたものがAUカードである。例えば、下図のように知識を確認するためのAUカードは、以下の表のようになる。

    表1
    A-1 AU:知識を確認する「知識を確認する」

    よく使う言葉 → 何 思う 言う いつ だれ どこ どんな どのくらい

    働きかけ・発問の表現

    応答の表現

    基本形



    は何だと思いますか。


    だと思います。
    バリエーション



    は何でしょうか。



    は何といいますか。



    は何ですか。



    いつ/だれ/どこ/どんな/どのくらい?


    です。



    といいます。



    はです。



    (いつ/だれ…)です。
    AUの日本語表現では、活動における学習の各局面のコミュニケーションを支える日本語の表現例を示したものである。ここで示した日本語表現は一つの例であり、お手本として完結したものではない。AUカードの活用においては、基本形を踏まえつつ、子どもたちの反応や応答に即した適切な表現で対応することが必要になる。その際、教師・指導者の表現にも、単語から単文、単文から複文、複文から段落文とある程度の難易度のあることを認識しておく必要がある。AUを使った授業は次のように行う。まず、実施する学年を決める。次に「テーマとトピック」を決める。それから、時間配分、目標、授業の流れを考えていく。そして、教材を決める。教師・指導者の児童に対する支援について、考える必要がある。

     日本語を母語としない子どもたちが、国語科学習のどのようなところに困難を感じて、学びに入っていけないのだろうか。次の4点が挙げられる。

    ・相手に自らの考えや意見、気持ちなどを分かりやすく順序立てて訴え、表現することができない。

    ・相手の考えや意見、気持ちなどを十分に理解することができない。

    ・相手の問題や疑問を受けとめ、自らの考えや意見を見直したり、向上・改善させたりすることができない。

    ・認知力の発達途上における概念形成の段階で、自らの問題点や疑問点を表現できない。

    日本語を母語としない子どもたちが抱えるこのような困難の背景には、日本語力と学習内容理解と認知力の相互関係の中で生じる以下のような問題が関係しているといわれている。

    ・生活場面を中心とした話し言葉による「聞く」「話す」から、書き言葉による「読む」「書く」を含む言語能力が求められていること。

    ・認知的能力の発達が、教科学習には十分でないこと。

    ・抽象的・概念的な命題の理解がむずかしく、国語科で使用される知的な言葉や記号になじめないこと。

    ・具象から抽象へ、また、抽象から具象へという学習形態や思考過程になじめないこと。

    国語科では、学習指導要領の改訂の基本方針を受けて、目的や相手、場面や状況に応じて効果的に言語を運用する力を育成することを目指し、これを基礎に互いの立場や考えを尊重しながら言語で伝え合う能力の育成を重視している。つまり、日本語を母語としない子どもたちの国語科における困難は、基本的にこの「伝え合う力」をめぐる困難であるといえる。国語科では、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の指導のために言語活動が位置づけられており、その活動の内容は領域それぞれに示される内容(学習スキル)により異なる。JSL国語科では、互いの立場や考えを尊重しながら言葉で「伝え合う力」などを高めていくための「学ぶ力」獲得のための支援を、それぞれの領域の学習スキルを身に付けるための言語活動を基本単位として整理することにした。これが、国語科AU(Activity Unit)である。国語科AUは基本的には、小学校学習指導要領の国語科の各領域の指導事項に基づく内容になっており、それは、国語科における指導の着眼点・ねらい、また目標としての到達点ともいえるもので、国語科の概念知識の獲得や抽象的学習の基盤形成に不可欠なものである。

    トピック型JSLカリキュラムにおけるAUは、「体験-探求-発信」という学習活動の時間的な展開パターンにしたがって整理されていた。「教科志向型」JSLカリキュラムにおける他の教科も基本的にはこのような時間的な展開パターンに基づいて学習活動を整理している。また、トピック型JSLカリキュラムにおけるAUは、学習活動を構成している下位活動を最小単位にまで分割したものであったが、国語科AUでは、例えば「目的に応じた『伝え方のパターン』が分かる」といったより大きな単位となっている。これも、国語科の教科としての特性によるものである。この単位に言語活動を具現化させるための題材や素材、テーマ・話題、それらに対する子どもたちの認識や思考、想像などが組み込まれることで具体的な学習活動が構成されることになる。日本語を母語としない子どもたちが言語活動を通して「伝え合う力」を身に付けていくためには、言語活動にただ参加させるだけではなく、同時に正しく理解し(聞く・読む)、正しく表現(話す・書く)するための「言語事項」の習熟を図ることが必要となる。JSL国語科に授業づくりは、「目標・ねらいと場の設定」「学習スキル・国語科AUの選択と具体化」「実際の指導とフィードバック」という三段階で展開していく。つまり、JSL国語科のねらいとする「学ぶ力」は、①言語活動に参加するための言語事項や語彙にかかわる「学ぶ力」、②「伝え合う力」を身に付けるための「学ぶ力」の獲得を重視している。
    引用・参考文献およびホームページ

    文部科学省(2009)『学校教育におけるJSLカリキュラムの開発について』(最終報告)小学校編

    文部科学省(2011)『外国人児童生徒の受け入れの手引き』

    文部科学省(2001)『学校教育におけるJSLカリキュラムの開発』

    井上恵子(2008)『外国からの子どもたちと共に』

    本の泉社

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