『半減期』の経験値を積む(●経験値問題●について)
第 100 回薬剤師国家試験 問題 275
院内のレジメンを管理する委員会において、制吐薬として用いる薬物について薬剤
師が説明した。
「この薬物は、5-HT3 受容体拮抗薬です。他の5-HT3 受容体拮抗薬に比べて消失
半減期が約 42 時間と長く、そのため遅発期の悪心・嘔吐にも効果があります。」
この薬物 0.75mg を急速静脈内投与するとき、7 日後の血中濃度に最も近い値はどれか。
1 つ選べ。ただし、この薬物の体内動態は線形 1-コンパートメントモデルに従うものとし、
分布容積は 750L とする。
1 0.25μg/mL
2 0.125μg/mL
3 0.0625μg/mL
4 0.25ng/mL
5 0.125ng/mL
6 0.0625ng/mL
さて、今回は急速静注した薬の 7 日後の血中濃度を聞いているんだね。
7 日もたったら普通、体の中の薬なんてほとんどなくなっているんじゃないの
って思っちゃうけど、今回テーマになっている薬は半減期=42 時間!長い!で
1 も実はこれ、架空の薬じゃなくて実際に存在する制吐剤なんだ。
0.004
2 0.032
3 0.096
4 0.120
5 0.250
それが、
『アロキシ®静注 0.75mg(一般名:パロノセトロン塩酸塩)』、大鵬薬
品株式会社が 2010 年に製造販売承認を取得した医薬品だ。
抗癌剤による悪心・嘔吐に使用する注射剤だよ。
そもそも抗癌剤の副作用による悪心・嘔吐には、抗癌剤の点滴などをスター
トして割と早めに起こる『急性悪心・嘔吐』と、24 時間以上たってから発生す
る『遅発性悪心・嘔吐』があり、急性は防げても遅発性は防ぎにくいのが現状
だったんだ。遅発性の悪心・嘔吐は正直いつ起こるかわからないし、わからな
いから起きてから慌てて制吐剤を打つしかなかった。
1
第 100 回薬剤師国家試験 問題 275
しかしこのアロキシ®静注 0.75mg のお陰で、遅発性悪心・嘔吐にも先回りし
て備えることができるようになり、癌化学療法に伴う副作用の軽減に大きく貢
献した、そんな医薬品だ。
んで、急速静注とあるからお約束のグラフを書いておこうね。
急速静注・単回投与のグラフ
グラフを使うか使わないかはわからないけ
ど、血中濃度っていうのはとてもイメージしに
くい情報だ。
何を聞かれているのかはっきり意識するため
にも、必ずグラフを書いてイメージを膨らませ
るようにしよう!
さて、このお薬は半減期がすでに 42 時間とわかっている。んで、7 日後でし
ょ?7 日って何時間かな?
なんで急に時間に直すのかって?だって、1 つの問題の中で、時間という単位
が 2 種類(時間と日)に分かれてたら考えにくいでしょ!こういう、基準を統
一するという作業は、様々な問題をシンプルに考えるために重要だよ。
んで、7 日=7×24hr=168hr
あれれ?半減期=42hr だよね、じゃあこれ、整数倍じゃないか?
168hr=42hr×4
いてあるんだ!
つまり、168 時間の中に、半減期が 4 つ入ってますよと書
これなら、ややこしい計算はいらない。濃度を 4 回半分にしていけば、勝手
に答えが出てくるね、これは【第 99 回薬剤師国家試験 46 問 解説】と、まっ
たく同じ考え方だよ!
2
第 100 回薬剤師国家試験 問題 275
でもちょっと待って、その最初の濃度っていくら?問題には書いてないね。
問題文に書いてあるのは“急速静注の投与量=0.75mg”と、“分布容積=750L”
だ。つまりこの 2 つの情報から、スタートの濃度を自分で計算してねって言っ
てるんだ。
ここまでを整理しようか。半減期=42 時間で、半減期が 4 回起こった時の血
中濃度が知りたいんだ。
この初濃度がわかれば、後は 4 回半分にしちゃえば答えがわ
かるんだ。そして今、与えられている情報は、
初濃度 C0
投与量=0.75mg
分布容積=750L
これらを使って、初濃度 C0 を求めたい。
D=0.75mg
C0 ?
Vd=750L
ここ!
42hr
84hr
126hr 168hr
どうやって初濃度を求めるか、なんだけど、実は今までやってきた過去問解
説で前提知識はあるはずなんだ。
【第 97 回薬剤師国家試験 172 問 解説】で一緒に勉強した 0 時間の特殊性を思
い出して欲しい。
急速静注 0 時間の特殊性
体内薬物量は、代謝排泄を受けて時間が経てば
100mg
確実に減少していく。
しかし唯一、急速静注直後(0 時間)だけは、
静注した薬物量がそのまま体内薬物量である!
3
第 100 回薬剤師国家試験 問題 275
この特殊性を活かして以下の式に代入し、
体内薬物量
血中濃度=
分布容積(Vd)
ただの食塩水の濃度問題と同じ要領で、
僕たちは分布容積を求めたのだったね。
でも今回は分布容積が先にわかってて、血中濃度がわからないだけでしょ。
血中濃度 C0
分布容積 Vd=750L
体内薬物量=0.75mg
分布容積を求める時と同じ
様に、0 時間の状態を図示する
と左のようになるね。
―【0 時間図】―
薬物動態の教科書的に書くと
体内薬物量
血中濃度=
・・・(*)
分布容積(Vd)
C0=
D
Vd
となるよ
ほら、結局(*)の 3 つの情報のうち、体内薬物量(投与量)と分布容積 Vd
の 2 つはわかっているんだから、代入すれば血中濃度(0 時間の濃度だから、つ
まり初濃度 C0)はわかるでしょ。
僕たちは今まで、分布容積を求めるために 0 時間の特殊性を活用してきたけ
ど、これからは初濃度を求めるためにも使えることを知っておこう。
もちろん(*)において血中濃度と分布容積がわかっていれば、0 時間の体内
薬物量=すなわち投与量を求めることも出来るよね!そんな問題もいつか解説
するからね。
それでは実際に、
(*)に投与量=0.75mg、分布容積=750L を代入してごらん。
4
第 100 回薬剤師国家試験 問題 275
0.001mg/L
初濃度 C0=
⇔
0.75mg
750L
・・・(*)
= 0.001mg/L
42hr
初濃度がわかった!
84hr 126hr 168hr
あとは、これを 4 回半分にすれば 7 日後の血中濃度がわかるよ。
―【半減期追跡の図】―
0.001 ⇒ 0.0005
⇒
42hr
42hr
0.00025
⇒ 0.000125 ⇒ 0.0000625 mg/L
42hr
42hr
168 時間
ケ、ケタが見づらいなぁ(´・ω・`)先にもっとわかりやすく変換しときゃよか
ったな。まあいいや、このまま無理矢理やるぞ。解く前にわかんないもんな。
とりあえず解答に必要とされている単位(μg/mL や ng/mL)に近づけていこ
う。
m(ミリ)=10-3
=106×10-9
0.0000625mg/L
n(ナノ)
3
0.0000625×106ng
=
L
mL も同様に考えて!
L(リットル)=103mL だよね!
103mL
= 0.0000625×103ng/mL
= 0.0625ng/mL
103 をかけるので、小数点を 3 つ右に移動!
よって、解答で言えば 6 が正解だね。
いいかな、練習して欲しかったのは 0 時間の特殊性を、分布容積だけでなく
初濃度 C0 を求めるのにも使えるところだ。
5
第 100 回薬剤師国家試験 問題 275
ちなみに、168 時間が半減期の整数倍だと気づかなかった時はどうやって解答
すればいいかな?
ここで急速静注・単回投与の血中濃度式を再確認してみよう。
急速静注・単回投与の血中濃度式
急速静注・単回投与の 7 日後の血中濃度 C が知りた
いのだから、この式の時間 t=168hr ってことだよね。
C C 0 e kel t
②
①
初濃度 C0=0.001mg/L は先程の 0 時間の特殊性の図で求めればよいし、あと
は kel がわかれば血中濃度 C が求められそうだ。
でも kel だって簡単に求められるよ。今、半減期はわかっているので、
t =
1
2
この『半減期と消失速度定数の公式』で kel
を求めよう。t=42hr と代入して・・・
ln2
kel
③
kel =
ln2
よし、これで代入したい 3 つの情報が揃ったよ、
実際に血中濃度式に①②③を代入してみよう。
42hr
C C0 e kel t
に、①②③を代入すると、
⇔
C 0.001mg / L e
⇔
C 0.001mg / L e
⇔
C 0.001mg / L 2
4
ln 2
168 hr
42 hr
4ln 2
4
4ln 2
e
eln2 と変換できるので、
4
『底が等しい log 乗は、イコール真数』より、
e 2 2
ln 4
4
・
⇔
・
初濃度 0.001mg/L を 4 回半分にしてねって書いてあるね。
・
16 で割ったりすると余計めんどくさいから、さっき使った
C 0.0625 ng / mL
【半減期追跡の図】で半分にしていこう。
当然だけど、同じ答えに辿り着くね。単位に注意してね。
6
第 100 回薬剤...