血中濃度の『対数表記』と、直線の傾きを用いた『kel』の求め方
第 98 回薬剤師国家試験 問題 171
体内動態が線形 1-コンパートメントモデルに従う薬物 1000mg をヒトに急速静脈
内投与したところ、投与直後と 10 時間後の血中濃度はそれぞれ 100μg/mL 及び 10
μg/mL であった。この薬物の全身クリアランス(L/hr)に最も近い値はどれか。た
だし、ln10=2.3 とする。
1 0.92
2 1.4
3
2.3
4 9.2
5 46
はい皆さんこんにちは。今回はそんなに難しくないけど、第 97 回 172 問と比
較してほしくてこの問題を採用したんだ。
よって今回の問題を解く前に、必ず次の問題を学んでおいてくれ。
前提知識
第 97 回薬剤師国家試験 172 問 解説
後々解説してゆくけれど、今回の問題は急速静注単回投与から得られる情報
の求め方が、前提知識【第 97-172 問】とちょっぴり違う、その違いに意識を集
中して読んで欲しいよ。
ではさっそく問題に取りかかろう。今回の問題で聞かれているのは全身クリ
アランス CLtotal だね。
トータルクリアランスの公式
CLtotal=kel・Vd
この公式はもう常識にしてくれてるかな?
CLtotal を知りたければ、kel(消失速度定数)
と Vd(分布容積)を求めればいいね。
ここで、前提知識【第 97-172 問】で学んだ『急速静注 0 時間の特殊性』がさ
っそく役に立つよ。忘れた人は必ず復習しておいてね。
0 時間とは、体内薬物量が唯一わかる奇跡の時間だったね!それでは 0 時間
の図を書いて分布容積を求めよう。
1
第 98 回薬剤師国家試験 問題 171
血中濃度 100μg/mL
左図に、注射で投与した直後、すなわち
0 時間の状態を再現したよ。
Vd
時間が経てば薬物は代謝・排泄されて減少
するけど、1000mg 投与した直後、0 時間の時
点では体内薬物量は間違いなく 1000mg のは
ずだ。
あとは食塩水の濃度計算と同じだったね!
体内薬物量 1000mg
体内薬物量
血中濃度=
分布容積(Vd)
100μg/mL=
100μg
⇔
=
mL
⇔ Vd=
⇔ Vd=
・・・(*)に、血中濃度=100μg/mL
体内薬物量=1000mg
を代入すると、
1000mg
Vd
1000mg
Vd
1000mg×mL
100μg
1000・10-3g×10-3L
濃度計算はあくまで機械的に!
m(ミリ)=10-3
μ(μ)=10-6
100・10-6g
⇔ Vd=10L
よって、分布容積は Vd=10L
前提知識【第 97-172 問】とまったく同じ求め方で、あっさり Vd が求まった
ね。では次に kel を求めたいんだけど、今回は前提知識【第 97-172 問】と違っ
て急速静注単回投与のグラフが与えられていないね。
2
第 98 回薬剤師国家試験 問題 171
前提知識【第 97-172 問】では、グラフから半減期を求めて、半減期から kel
を求めたのだったね(必ず復習しておいてね!!)。グラフはいろいろな情報を
与えてくれる重要アイテムだ。
よって、急速静注単回投与のグラフは自力で書けて欲しいのでここで“急速
静注単回投与の最低限”をまとめておくよ。
急速静注・単回投与の最低限
体内
kel
濃度 C
C C 0 e kel t
初濃度
C:血中濃度
C0:初濃度
kel:消失速度定数
時間 t
t :時間
ではこのまとめを元に、問題文の状態をグラフにするとこうなるね。
なんでいちいちグラフなんて書く
の?って思った人はいるかな?
100μg/mL
あのね、計算問題というのは『今何を
問われているのか?』が意外とわかりに
くいものなんだ。
問われているテーマを正確に理解す
るためにも、情報の視覚化は非常に重要
な武器になるんだよ。
10μg/mL
10hr
3
第 98 回薬剤師国家試験 問題 171
よって、このテキストを読んでくれている君は、今回の問題に必要かどうか
にかかわらず『計算問題は可能な限り視覚化する』ことを習慣にしておくれ。
さて、今僕達は kel を求めたいのだが、問題の理解に役立つようにグラフを書
いたのだった。実際、前提知識【第 97-172 問】では、グラフから半減期を求め
て、半減期から kel を求めたのだったね。
だから同じようにグラフから半減期を考えてみよう。濃度の変化と時間に着
目して・・・
うーん、これじゃあ半減期は簡単にはわ
からないなぁ。え?なんでかって?
投与 0hr → 100μg/mL
投与 10hr → 10μg/mL
半減期ごとに濃度を並べてごらん。
10μg/mL はこの間!
100μg/mL
50μg/mL
t
25μg/mL
t
1
2
1
2
12.5μg/mL
t
1
2
6.25μg/mL
t
1
2
初濃度 100μg/mL を半分にしていってもピタッと 10μg/mL が出てこない!
つまりね、前提知識【第 97-172 問】の時みたいに偶然ピッタリわかりやすい
時間で半減期が現れない。半減期がわからないんじゃ、
t =
1
2
ln2
kel
この『半減期と消失速度定数の公式』も使
いようがないね。
じゃあ kel を求めるために、他に使えるものは無いかな?と考えると・・・あ
るある笑、kel を中に持つ『急速静注単回投与』の血中濃度の式があるじゃない
か!さっきまとめたばかりだね!
C C 0 e kel t
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第 98 回薬剤師国家試験 問題 171
今、初濃度 C0 が 100μg/mL、投与 10 時間後の濃度が 10μg/mL とわかって
いるんだから、式の中でわからないのは kel だけだよね。
C C0 e kel t
⇔
10μg / mL 100μg / mL e
⇔
10
⇔
ln 10 1 ln ekel 10 hr
⇔
ln 10 kel 10hr
⇔
⇔
両辺を 100μg/mL で割ろう
kel 10 hr
1
kel
kel 10 hr
e
ln 10
両辺に対数 ln をとった
lnAA = 1 も常識にしとくこと!
ln10=2.3 は問題文に与えられてい
るけど、これは暗記しておこう。
10 hr
kel 0.23 hr 1
よって、CLtotal=0.23hr-1×10L =2.3L/hr (解答は 3)
kel
×
Vd
いいかな?今回の問題自体は別に難しくないけど、急速静注・単回投与から
の情報の取り出し方が、前提知識【第 97-172 問】と違うという点を味わって欲
しかったんだ。
前提知識【第 97-172 問】
グラフからたまたま半減期がわかったので、半減期と消失速度定数の関係式を使
って kel を求めた
【今回の問題】
急速静注・単回投与の血中濃度の式に直接代入して kel を求めた
むしろ、半減期が都合よくわかることのほうが例外だよ。今回のように血中
濃度の式を使うほうが普通の求め方だし、実際、前提知識【第 97-172 問】も本
問の解き方で kel が求められるからやってごらん。
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第 98 回薬剤師国家試験 問題 171
ちなみに、今回の問題で半減期が聞かれていたらどうする?
t =
1
2
ln2
kel
この『半減期と消失速度定数の公式』からわ
かるように、半減期と kel はつながっているん
だから、まず血中濃度の式から kel を求めて、
求めた kel をこの式に代入し、半減期を求めればいいだけだね。簡単でしょ。
さて、ではここからがこのテキストの本題だ。
今回、急速静注・単回投与の血中濃度式を使って kel を求めることが出来たが、
これは初濃度がわかっていたからなんだ、式を見てごらん。
C C0 e
kel t
確かに C0 が未知数だったらこの式は解けない
から、kel は求められなかったはずだよね。
じゃあここで意地悪な質問だ。もし君が、患者さんの初濃度を測り忘れたら
どうする?kel はもう二度と求められないのだろうか?
今回の問題で初濃度がわかってない状
態をグラフにすると左のようになるね。
10 時間後に採血したことしかわから
ない笑。
でもこんなときは『2 点間の血中濃度』
を利用すれば kel を求められるよ。
10μg/mL
少し難しいが、求め方のパターンだと
思って身につけて欲しい。
10hr
じゃあ、患者さんに採血をお願いして、3 時間後の血中濃度が 50μg/mL とわ
かったとしよう。改めてグラフを書くと以下のようになるね。
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第 98 回薬剤師国家試験 問題 171
―――――――直線に帰着せよ(kel 編)―――――――
まずは血中濃度の式の変形からだ。
C C0 e kel t の両辺に ln をとると、
ln C ln C 0 e kel t
50μg/mL
ln C kel t ln C 0
となるね。
10μg/mL
3hr
10hr
この式を血中濃度の式の『対数表記』と名前をつけておくよ。なぜこんな式
変形をしたのかは、後でわ...