第99回薬剤師国家試験173問 解説

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    反復投与の『定常状態』について

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    第 99 回薬剤師国家試験 問題 173

    薬物 A の体内動態は線形 1-コンパートメントモデルに従い、血中消失半減期は 7 時間、
    分布容積は 20L である。この薬物 10mg を 5 時間ごとに繰り返し経口投与したところ、定
    常状態における平均血中濃度は 0.8μg/mL となった。薬物 A の経口投与後のバイオアベイ
    ラビリティとして、最も近い値はどれか。1つ選べ。ただし、ln2=0.693 とする。
    1 0.1

    2

    0.2

    3 0.4

    4 0.6

    5

    0.8

    今回は経口・反復投与の問題だね。この経口・反復投与に限らず“投与する”
    という問題では、血中濃度のグラフを大雑把でもいいから書けるようになって
    おくことが重要だ。それがどんな投与法か聞かれた時、グラフがかけると理解
    がとても深まるからね。

    2.経口・単回投与
    1.急速静注・単回投与

    3.定速静注(点滴)

    Css

    定常状態

    1

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 173

    4.急速静注・反復投与

    Css

    5.経口・反復投与

    Css

    定常状態

    定常状態

    今回はこの 5 番の“経口・反復投与”について聞かれているんだね。
    一定時間ごとにお薬を服用していくと、だんだんと血中濃度の高値と低値が
    切り上がって行き、最終的には同じ形の山が繰り返すようになる。
    この、
    “血中濃度が一定の動きをする”状態のことを、
    “定常状態”と言うよ。
    投与する薬が蓄積して血中濃度が高まっていくと、体が薬を捨てようと頑張る
    ため、代謝排泄の速度は上がって行き、最終的には“投与した薬と排泄される
    薬の量が等しい”状態がやってくる。これがまさに定常状態なんだ。
    3 番の点滴も同じだよね。ずーっと一定の速度で薬を投与し続けるのが点滴だ
    けど、血中濃度が高まってくると代謝排泄のスピードも高まって行き、最終的
    に投与する薬(アクセル)と代謝排泄される薬(ブレーキ)が等しくなるから、
    ある一定の濃度で止まっちゃうんだね。
    定常状態の理解は大丈夫かな?
    ただ、この定常状態というやつは、3 の点滴と 4、5 の反復投与では少し事情
    が違うね。根本的にどこが違うかわかるかな?
    例えば君が病院で勤務している薬剤師で、君の担当の患者さんが点滴をスタ
    ートしたとする。もちろん君が点滴速度を決めたんだ、投与計画の責任を持つ
    立場だよ。
    そんな時、医師から『この人の定常状態の血中濃度はどれくらいになります
    か?』と質問されたとする。
    2

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 173

    君は即座に左のようなグラフを医師に
    見せて、『定常状態は 20μg/mL になる予
    定です』と答える。

    20μg/mL

    医師をリーダーに、薬剤師、看護師、検
    査技師などなど、様々な職能の人がチーム
    医療を支えているけど、この血中濃度の話
    は、薬物動態学を修めている薬剤師の得意
    分野なんだよ。

    定常状態

    では次に、経口・反復投与の場合はどうだろう?
    同じように、
    『定常状態の血中濃度はどうなりますか?』と医師に聞かれても
    答えようがないよね。グラフを見ればわかるけど、反復投与の定常状態は、血
    中濃度に最大値と最小値があるんだもん。

    最大値

    最大値

    4.急速静注・反復投与

    Css

    5.経口・反復投与

    Css
    最小値

    最小値
    定常状態

    定常状態

    このように、反復投与では血中濃度が 1 つに定まらない。
    でも、臨床の現場では『定常状態ではだいたいこれくらいの濃度です』って言
    えたほうが当然便利だよね。
    この“反復投与の定常状態を代表する濃度”を、平均血中濃度 Css と呼んで、
    最大値(Cssmax)と最小値(Cssmin)の間にある、ほどよい感じの濃度に決めた
    んだ。
    3

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 173

    今、僕はわざわざ“間にある、ほどよい感じの濃度”と、ぼんやりした言い
    方をしたね。なぜならこの平均血中濃度 Css は Cssmax と(Cssmin)のちょうど
    真ん中ではないからだ。
    “足して 2 で割ったらいいじゃんか!”と思う人もいると思う(というか、
    僕自身そう思っていた)けど、それだと AUC 等の関係でいびつな平均値になっ
    てしまうんだ。
    でもこの理由までは薬剤師国家試験で必要とされる内容ではないので、反復
    投与・定常状態の平均血中濃度 Css は、今から書くまとめを何度も復習して、
    必ず公式を丸暗記しておこうね。

    急速静注・反復投与の定常状態
    定常状態

    Cssmax

    最高血中濃度

    Cssmin

    最低血中濃度

    Css

    τ
    定常状態の平均血中濃度 Css

    Css=

    D
    kel・Vd・τ

    D…投与量
    kel…消失速度定数
    Vd…分布容積

    τ…投与間隔

    4

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 173

    経口・反復投与の定常状態
    定常状態

    Cssmax

    最高血中濃度

    Cssmin

    最低血中濃度

    Css

    τ
    定常状態の平均血中濃度 Css

    Css=

    F・D
    kel・Vd・τ

    F…バイオアベイラビリティー
    D…投与量
    kel…消失速度定数
    Vd…分布容積

    τ…投与間隔
    ちなみに今回の問題では使わないけれど、次の公式も必ず暗記しておこう。
    トータルクリアランスの公式

    CLtotal=kel・Vd

    薬物動態学ではしょっちゅう見る『トータルクリアラ
    ンス』の公式だね。

    様々な式の中に CLtotal が隠れていることに気付くために、この公式は重要だ。
    え?どういう意味かって?ほら、すぐ上のまとめの平均血中濃度 Css の中に、
    この CLtotal が隠れているのがわかるかな?

    Css=

    F・D
    kel・Vd・τ
    CLtotal

    ね、確かにトータルクリアランス
    が隠れているね。公式を右辺から左
    辺に見るんだ。
    5

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 173

    このように、あの『トータルクリアランス』の公式は、様々な式と CLtotal を
    つなぐ架け橋のような働きをしてくれる。式を右から左へ、視点を変えること
    で初めて分かることだ。
    この“架け橋”の使い方が、君がこれから様々な問題に当たってゆく時に非
    常に頼もしい武器になってくれるよ、と予言しておこう。

    さて、それでは今回の問題の解答に進もう。
    問題文で聞かれていることは、経口・反復投与のバイオアベイラビリティー
    だ。そしてご丁寧に『定常状態における平均血中濃度は 0.8・・・』と書いてあ
    る。さっそくまとめの公式が使えそうだね。
    経口・反復投与のまとめから公式を書き出すと、

    Css=

    F・D
    kel・Vd・τ

    公式の中に今回求めたいバイオア
    ベイラビリティー(F)が入っている
    じゃないか。

    あとは F 以外のパラメーターを埋めていけばいいだけ。Vd も問題文にあるし、
    (タウと読みます)も 5 時間って書いてある。あとは kel だけど、これも半
    減期がわかっているから簡単に求まるよ。

    τ

    【解答】
    経口・反復投与の定常状態における平均血中濃度 Css は、
    Css=

    F・D
    kel・Vd・τ

    ・・・(*)

    問題文の条件より、平均血中濃度 Css=0.8μg/mL ・・・①
    分布容積 Vd =20L
    ・・・②
    投与間隔 τ =5hr ・・・③
    投与量

    D

    =10mg ・・・④

    6

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 173

    半減期と消失速度定数の関係式!
    これは常識にしておこう!

    とあるので、 t 1 =
    2

    また、半減期=7hr

    7hr =

    ln2
    kel

    ln2

    kel =

    より、

    7hr

    ln2

    に代入して、

    kel

    ・・・⑤

    以上、①~⑤を(*)に代入すると、
    F・D

    Css=

    kel・Vd・τ

    F・10mg

    ⇔ 0.8μg/mL=

    ln2
    7hr



    0.8μg
    mL

    =

    時間の単位 hr を約分した
    計算過程では単位もただの文字式

    ・20L・5hr

    と思って計算すればいいよ

    F・10mg

    0.8μg/mL →

    ln2
    ・100L
    7

    0.8μg
    mL

    これは同じこと、計算しやすいよ
    うにはっきりと分数表示しよう

    ln2
    7



    0.693
    7

    ≒0.1
    なぜかよくわからないが、薬剤師
    国家試験ではこのような『だいた







    0.8μg
    mL

    0.8μg
    mL
    F=

    =

    =

    いこれくらいだよ』という概算が

    F・10mg

    よく出る

    0.1・100L

    F・mg

    0.8μg・L
    mL・mg

    L
    m(ミリ)=10-3
    μ(マイクロ)=10-6
    を代入して単位を揃える

    7

    第 99 回薬剤師国家試験 問題 173

    F=



    0.8×10-6g・L
    10-3L・10-3g

    ⇔ F=0.8

    さて、この F=0.8 という数字を見て具体的なイメージがわくかな?
    『この薬は、経口で服用すると 80%が循環血中に入っていくのだな』と、き
    ちんとイメージしようね、ただ単に 0.8 という数字ではなく、その数字の持つ
    意味も味わうようにすると、数学的な計算が苦手じゃなくなってくるからね。

    今回は定常状態の血中濃度、特に平均血中濃度にスポットを当てて解説しま
    した。薬剤師国家試験では必須の知識だから必ず身につけておこうね。

    また、常識的な知識として扱ってはいるが、
    トータルクリアランスの式
    半減期と消失速度定数の関係式
    も慣れてないと使いこなせないも...

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