『半減期』の理解と一般化
第 99 回薬剤師国家試験 問題 46
体内動態が線形 1-コンパートメントモデルに従う薬物 800mg をヒトに単回静脈投与した
ところ、投与直後の血中濃度は 40μg/mL、投与 6 時間後の血中濃度は 5μg/mL であった。
この薬物の消失半減期(h)に最も近いのはどれか。1 つ選べ。
1.
0.5h
2.
1h
3.
2h
4.
3h
5.
4h
半減期とは、ある値が『半分になる時間』のことだった。今回の問題のよう
に“血中濃度”が半分になる時も使うし、放射性物質の壊変でも半減期という
言葉を使ったね。
ところで、急速静注・単回投与の血中濃度のグラフは次のようだった。
C
縦軸 C・・・血中濃度
急速静注・単回投与
C0
横軸 t・・・時間
C0・・・初濃度
1
2 C0
Kel・・・消失速度定数
1C
4 0
0
5hr
hr
t
グラフの式・・・ C C 0 e kel t
これはもはや常識と思って覚えて欲しい、グラフも式もすぐに頭から呼び出
せるようにしておこうね。
では、このグラフを見ながらもう少し半減期について具体的なイメージがで
きるようにするよ。
1
第 99 回薬剤師国家試験 問題 46
体に入ったお薬は代謝排泄を受けて減少し、血中濃度がちょうど半分になる
までの時間が半減期だったね。
1
上のグラフでは、初濃度 C0 が
C (半分!)になるまでの時間が 5 時間だ
2 0
から、この薬は半減期=5hr とわかるね。
また更に半分になる時間だってやっぱり 5hr なのだから、グラフ中の
は、
5hr を足して 10 とわかるよね。別に 0 時間からスタートしなくてもいい、
どの地点でもいいから、決めた時間から血中濃度が半分になる時間が半減期だ。
このように、半減期について考える時にグラフは非常に強い味方になってく
れるので、今回もグラフを書いて考えてみようか。
初濃度が 40μg/mL、6 時間後に濃度が 5μg/mL になった、という情報を、
大雑把で良いからグラフで書いてごらん。
C(μg/mL)
さて、まだ半減期はわかっていないけど。このお薬は
初濃度が 40μg/mL だから、1 回半減期を迎えると
40
40μg/mL
⇒
20μg/mL
になるはずだね。同様にどんどん半分にしてゆくと、
5
6hr
0
40
⇒
20
⇒
6 時間
t
10
⇒
5μg/mL
すなわち、6 時間で 3 回の半減期
を迎えたのだ!
よって 6 時間÷3 回で、
半減期は 2 時間とわかるね。
2
第 99 回薬剤師国家試験 問題 46
なんかややこしい式やグラフを使わなくても、半分になってゆく数字を追い
かけるだけで答えが出てしまったね。
今回なんでこんなに簡単だったかというと、
“半分にしていったら、たまたま
半減期 3 回というキリの良い数字で、たまたま求めたい濃度が出てきた”から
だね。
半減期を求めさせる問題では、実際の国家試験でもあまりややこしい計算な
どはさせず、今回のように“意味がわかっていれば簡単な計算で答えが出せる”
という問題が主になると思います。なぜなら、国家試験で聞きたいのは、半減
期の意味がわかっているかどうかであり、ややこしい計算ができるかどうかで
はないからです。
ただ、やはりあまり本質的な計算とは言えないのでもう少し掘り下げて勉強
しておこう。
濃度が半分になっていく過程って、数式で表せないかな?
40
20
⇒
⇒
10
⇒
5
これをもっと一般化するとどんな計算になるだろう?
1
“半分”ってのは、 をかけることだから、1 回半減期を迎えるとは、
2
1
1
40 20
2
こういう計算をしているんだよね。
初濃度に“半分”を 1 回かけるってことだ。
じゃあ半減期を 2 回迎えるとはどういうことだろう?もうわかるかな。
2
1
40 10
2
初濃度に“半分”を 2 回かけるってことだね。
3
第 99 回薬剤師国家試験 問題 46
つまり、半減期の回数は初濃度にかけた
1
の指数に現れてくるんだよ。
2
半減期の計算 ・・・ 本質は、“半分”の回数である!
1
初濃度
2
回数
指数が『半減期の回数』を示すことを意識せよ!
今回の問題をこの式で考えてみると、以下のような解答になるよ。
初濃度が 40μg/mL なので、血中濃度が 5μg/mL になった時(6 時間後)の
半減期の回数を A と置くと、以下の式を得る。
1
A
40
5
2
1
2
A
1
2
A
5
40
1
8
半減期の回数が書いてある
1
2
A
3
1
2
よって A=3
6 時間で迎えた半減期は 3 回とわかるので、6÷3=2・・・半減期は 2 時間
いいかな、わざわざ難しく考えているようにも見えるけど、偶然解けるだけ
の解答法を繰り返しても本質はつかめないからね。
4
第 99 回薬剤師国家試験 問題 46
しかし、この第 99 回・問題 46 はちょっといじわるだよね。問題の最初の投
与量“800mg”って解答にまったく関係ないんだから!分布容積を求めても明
らかに遠回りな解答になるし、解答に選択の余地がない。
複数の可能性があるなら別にいいけど、使わなくても解ける(使っても遠回
り)なら載せないで欲しい。受験生を迷わせるだけで、本来の実力の発揮を無
駄に妨げてる気がするんだけどなあ・・・僕はこういうの嫌いです。
ではもう一問、偶然では解けない練習問題を載せておくよ。
数字を並べるだけで解けてしまった今回の問題との違いを噛み締めながら解
いて欲しい。
【第 99 回
問 46 改題】
体内動態が線形 1-コンパートメントモデルに従う薬物をヒトに単回静脈投与したところ、
投与直後の血中濃度は 40μg/mL、投与 6 時間後の血中濃度は 7μg/mL であった。
この薬物の消失半減期(h)は何時間か求めよ。ただし、log7=0.845 とする。
今回取り上げた問題の、6 時間後の血中濃度を 5→7 に変えただけだよ。たっ
たこれだけの変更で、もう最初のような“たまたま解ける”方法は使えないね。
C
グラフを書くとよくわかるが、2 回目と 3 回目の半減期の
間に“6 時間”が存在するんだね。
40
つまり、7μg/mL の時点で半減期は“2回とちょっと”迎
えているんだね。キリのいい3回なんていう回数じゃない!
20
何回半減期を迎えたのかよくわからないから、わからない
ものに名前をつけて方程式を解くんだよ。
10
7
5
t
6hr
5
第 99 回薬剤師国家試験 問題 46
血中濃度が 7μg/mL
の時点(6 時間後)での半減期の回数を A と置く。
A
1
40 7
2
1
2
A
7
40
A
1
log
2
両辺に log をとると
1
2
A log
log
log
7
40
7
40
A log 1 log 2 log 7 log 40
A 0 log 2 log 7 log 4 log 10
A log 2 log 7 log 4 1
A
A
log 7 2 log 2 1
log 2
0.845 2 0.301 1
0.301
よって A≒2.5
これは 6 時間で半減期が 2.5 回発生したことを意味する。
すなわち 6 時間÷2.5 回=2.4 時間/回(半減期 1 回あたり 2.4 時間)
6
第 99 回薬剤師国家試験 問題 46
今回は、半減期について国家試験の解答解説に縛られず、本質的な理解が得
られるように書きました。改題で扱った問題のレベルが出題されることは考え
にくいけど、解けるようにはなっていてほしいな。
また、基本的な数式の計算は常識にしておこうね。log の計算公式と、ある程
度の暗記(log2=0.3010 など)は薬剤師国家試験でも必須の知識だよ。機会が
あったらこれもまとめようかな。
また、今回の知識で薬剤師国家試験・第 82 回問題 239 も解けるからやってお
こう。放射化学の範囲だけど、考え方はまったく同じだよ。
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