参考文献なし
★ 基礎現代化学シケプリ★ written by かずきち。
§3.原子の構造(第3回)
(a)シュレディンガー方程式から水素原子中の電子の定常状態でのエネルギー準位や波動
関数を求めてみる。すると、水素原子の波動関数は動径関数 R(r)と球面調和関数 Y(θ、φ)
の積で表される(上の図参照)。この n、l、m の3つの量子数で区別されるψは原子中の電
子状態を表す波動関数であり、原子軌道(atomic orbital:AO)と呼ばれる。N を主量数
(principal quantum number)、l を方位量子数(azimuthal quantum number)、m を磁気量子
数(magnetic quantum number)と言う。「軌道」と言う言葉からは、電子の動く「道路」の
ようなものをイメージしがちだが、原子軌道は電子の「運動状態」を表しているものなの
である。
R(r)は原子核からの r の距離にある空間の「ある1点」に電子が存在する確率を表すの
であって、通常興味があるのは各座標θ、φに関係なく原子核から r の距離に電子が存在
する確率である。そこで半径 r で厚さ dr の球状の殻の中に電子を見出す確率を見出さなけ
ればならない。それゆえ電子の存在確率は球状の殻の体積をかけた、4πr^2×R(r)^2 に比
例することになる。
1s、2s、3s 軌道もレジュメ中青い下線部を理解できれば十分理解可能だと思う。要する
に青い下線部に留意して、ψをうまくグラフにプロットできればいいわけである。
(b)水素原子の場合には陽子と電子の間における引力のみが働いていたが、多原子分子にな
ると多数に存在する電子間に斥力が働くため、1つの電子の運動が他の電子の運動に関わ
ってしまう。そのため、ただでさえ解くのが困難だったシュレディンガー方程式はますま
す難しいことになる。この時、電子間の相互作用があるため厳密に方程式が解けないので、
相互作用をひとまず無視してしまえば方程式が解けるはずです。そこで電子間相互作用を
無視した独立電子近似の扱いをすることとなる。
この時、あたかも「多数の電子が水素原子で学んだ原子軌道に独立に配置されている状
態」を意味していることになる。ただし、実際に電子間の相互作用は重要であり、これを
完全に無視すると大きく正確さを欠くことになる。そこで、無視していた電子間相互作用
を考えるさらなる近似的方法としては1つの電子 e(i)が他の電子のつくる「平均場」を運
動していると捉えて、この電子と他のすべての電子との相互作用を表現することができる。
(c)エネルギー順位については、水素原子の場合は主量子数 n だけで決まっていたのに対し
て、他電子原子では n が同じでも方位量子数 l が小さいほどエネルギー順位が低くなる。
これはとても重要な特徴である。L の値が小さいほど、エネルギー順位が低くなる理由は l
が小さいほど、電子の原子核のごく近くに存在する確率が高くなるため、平均としてより
強い引力を原子核から受けると考えられる。
(d)多電子原子中の電子も水素原子同様、個々に 1s、2s、2p などの原子軌道に入っている
と考えてよいとわかった。では多数の電子はこれらの各原子軌道にどのように配置されて
いるのか?単純に考えれば、最もエネルギー順位の低い 1s 軌道にすべての電子が配置され
ればいいと思われる。そうすると原子番号3のリチウム Li の電子配置が(1s)^3 となるはず
である。しかし、実際には(1s)^3 という電子配置にはならない。これには電子スピン
(electron spin)と呼ばれる電子の自転運動をともなう角運動量が深く関係している。電子
は原子核の周りを運動しているだけではなく、自ら自転運動も行っている。まぁ、いろい
ろ複雑な計算がからんでくるのだが(スピン量子数(spin quantum number)やら、スピン磁
気量子数(spin magnetic quantum number)が…)、めんどくさいので結果として上向きス
ピン(up-spin)と下向きスピン(down-spin)の存在を知っていれば十分。
パウリの排他原理(Paili’s exclusion principle):各軌道には2個までしか電子を収
容できない。そしてどう位置軌道に同じスピンの電子を2個収容することは不可能である。
上向きスピンと下向きスピンをそれぞれ1個までしか収容できない。
パウリの排他原理の紹介のあとで構造原理(building-up principle)を覚えよう♪①電子
はエネルギーの低い原子軌道から順番に収容される。②原子軌道のエネルギーは低いもの
から次のように決めていく。1s<2s<2p<3s<3p<(4s,3d)<4p<(5s,4d) ③パウリの排他原理に
従う。つまり1つの軌道に対する電子の配置は
空、上向きスピン1つ、下向きスピン1
つ、上向きスピンと下向きスピン1つずつの4パターンに限られる。④ある1つの主量子
数に対して、s 軌道は1種類であり2個まで電子を収容する。p 軌道は3種類であり計6個
まで電子を収容する。d 軌道は5種類であり計10まで電子を収容する。⑤同一エネルギー
の軌道(たとえば、2px、2py)に2個以上の電子が配置されるとき、次のフントの規則
(Hund’s rule)にしたがう。規則1→電子はできる限り別々の軌道に入る。規則2→電子
スピンの向きはできる限りそろえて入れる。