資料紹介

Tennessee WilliamsのBaby Doll(1957)は、北部化されてゆく南部を舞台に、孤独、幻想と現実の葛藤、新旧社会･文化の対立というWilliams的主題に加え、現実不適応者の悲劇、行方を見失った人間が異端者として爪弾きにされる様など、人間の哀しさを象徴的に描いている。ここでは、主にArchie LeeとAunt Roseに焦点を当てながら、そうした異端者としての人間の哀しみについて述べることとする。
Tennessee Williamsは、デビュー作The Glass Menagerie(1944)以後、現実の力に打ちのめされて挫折していく感受性豊かな異端者を、象徴的･叙情的に描いていった劇作家だが、こうした人物からは人間の悲哀や心の傷に寄せる作者の共感と愛情、さらには彼らを破滅に追いやる現代文明の機構に対する作者の呪いと怒りがうかがえ、それが作者特有の負の美学となって表れている。このBaby Dollも、産業の発達と資本の拡大を機械が促進する、いわゆる“北部化”されてゆくアメリカ南部を舞台に、主にArchie Leeの姿を通して、“失われつつある南部伝統”を取り戻そうと、Silva Vacarroに象徴される“機械時代”としての北部に反発しようとする動きが象徴的に描かれている。Archie Leeは、Silvaに抵抗しながらも最後には仕事も妻さえも奪われてしまうのだが、南北の新旧文化の対立を背景に描かれたこのBaby DollにおけるArchie Leeは、まさに南部の影を象徴する存在なのであり、環境によって支配される存在としての人間を哀しく演じ切っていると言えよう。

資料の原本内容 ( この資料を購入すると、テキストデータがみえます。 )

　Tennessee WilliamsのBaby Doll(1957)は、北部化されてゆく南部を舞台に、孤独、幻想と現実の葛藤、新旧社会･文化の対立というWilliams的主題に加え、現実不適応者の悲劇、行方を見失った人間が異端者として爪弾きにされる様など、人間の哀しさを象徴的に描いている。ここでは、主にArchie LeeとAunt Roseに焦点を当てながら、そうした異端者としての人間の哀しみについて述べることとする。
Tennessee Williamsは、デビュー作The Glass Menagerie(1944)以後、現実の力に打ちのめされて挫折していく感受性豊かな異端者を、象徴的･叙情的に描いていった劇作家だが、こうした人物からは人間の悲哀や心の傷に寄せる作者の共感と愛情、さらには彼らを破滅に追いやる現代文明の機構に対する作者の呪いと怒りがうかがえ、それが作者特有の負の美学となって表れている。このBaby Dollも、産業の発達と資本の拡大を機械が促進する、いわゆる“北部化”されてゆくアメリカ南部を舞台に、主にArchie Leeの姿を通して、“失われつつある南部伝統”を取...

コメント24件