アメリカにおける医療制度の現状を説明するとともに、わが国の医療改革について述べよ。

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    アメリカにおける医療制度の現状を説明するとともに、わが国の医療改革について述べよ。
    1.アメリカの医療制度の現状

     アメリカの医療保険制度は、わが国のものとは異なり、加入している者のみが保障される類のものである。アメリカは人種・民族共に様々であり、対してわが国は島国という事もあり、国民の血を絶やさぬように守っていくという考え方に基づいているのかも知れない。

    アメリカの公的医療保険制度には、メディケア(公的高齢者医療保険制度)とメディケイド(公的低所得者医療扶助制度)がある。これらは、対象を高齢者と低所得者に限定したもので、それ以外の、ある意味中途半端に収入のある者に対する公的な医療保険制度は存在しないのである。中途半端に収入のある者が保険に加入したい場合は、自主的に民間の保険会社と契約をしなければならないのである。

    それ故に、アメリカには保険未加入者が多く存在しているのである。生涯に渡って健康で、病院に通うことが無ければ、保険に加入する必要は無いだろう。保険料を払うだけ無駄だからである。しかし、誰だって好き好んで病気になる訳ではない。保険は、いざという時の為に加入しておくべきものなのである。いざ病院に通う際に、10割負担という高額な医療費を払うのは大変なので、予防の為に加入しておくべきものなのである。それでもアメリカには多くの保険未加入者が存在している。理由としては、経済的な問題により加入出来ないのではないだろうか。 (1)メディケア

    メディケアは、65歳以上の高齢者、障害年金受給者、慢性腎臓病患者等を対象として連邦政府が運営しているものである。これには入院サービス等を保証する「パートA」と、外来等における医師の診療等を保証する任意加入の補足的医療保険の「パートB」がある。

    「パートA」は、入院、ヘルス・ケア、ホスピス・ケア等の病院保険で、財源は65歳未満の勤労者が払う社会保証税によって成り立っている。

    「パートB」は、医療費等の面でAをカバーする補足的医療保険となっており、財源は加入者が毎月払う保険料と一般歳入によって成り立っている。なお、1988年から「メディケア、選択プラン」が導入され、補足的医療保険と選択プランの保険料を払うことで長期看護費用等もカバーされるようになり、これは「パートC」と呼ばれていたもので、2003年に「メディケア・アドバンテージ」に改名された。さらに2006年から外来の処方薬費用を給付する「パートD」が導入されている。

    (2)メディケイド

     メディケイドは、生活困窮者を対象とする公的な医療扶助制度である。これは州毎の運営となっているのだが、貧困層のあり方が州によってかなり異なるからである。財源は州の財政に格差がある為、半分は国が補助している。

    扶助の内容は、入院、外来受診、諸検査、在宅ヘルスサービス等であり、メディケアでカバーされていないものも多数ある。

    以上がアメリカの公的医療保険である。次に民間保険について述べる。先にも述べたが、アメリカには国民皆保険制度が無い為、民間の保険会社が発達している。そこでは、医療費の抑制と質の向上を図ったマネジド・ケアというシステムが取られている。

    (3)マネージド・ケア

     アメリカの医療制度は伝統的に自由診療制で、患者は自分で医師を選び、医師は自分で決めた診療報酬を請求できるシステムをとっている。そのため民間の医療保険が発達したといえるが、同時に医療費の高騰という問題を抱えていた。そこで、1970年代から1980年代にかけて、病気ごとに医療費と入院日数の標準が設定されるなど医療の適正性を審査する機構が活動を始め、HMOやPPOといった新しいヘルスプランが台頭してきた。こうした医療費の抑制と質の向上を目的としたシステムは「マネージド・ケア」と呼ばれる。

    (4)「医療保険改革法」の成立

     2010年3月、アメリカ議会は「医療保険改革法」を可決、国民皆保険が育たなかった米国にとって歴史的な医療保険改革がスタートとなった。

     この「医療保険改革法」には、中小企業や個人の保険加入を補助するための減税措置や助成金の給付、保険会社間の競争を促進するための州ごとの医療保険取引市場の創出、既往症を有する人の保険加入を拒否する保険会社の慣行の禁止などが規定されている。

    2.わが国の医療制度改革

     わが国は、すべての国民がいずれかの公的医療保険制度に加入し、保険料を納め、医療機関で被保険者証を提示することによって、一定の自己負担で必要な医療を受けることができる「国民皆保険制度」を採用している。結果、世界でも最高水準の平均寿命や高い保険医療水準を実現している。

     その一方で、国民医療費は年間30兆円にも上り、今後さらに高齢者医療を中心に医療費の大幅な増加が見込まれ、将来にわたって持続可能な医療保険制度の構築が大きな課題になっている。

     また、日本の医療は入院患者の平均日数が世界的にみても長く、医療紛争の増加に加え、産婦人科や小児科医、へき地の医療の不足、病院勤務医の過密な勤務実態、救急医療の受け入れ拒否等が大きな社会問題になっている。

     さらに近年、糖尿病などの生活習慣病患者が増大していることから、若い時期からの生活習慣病予防対策の拡充が課題となっている。こうした状況を踏まえて2006年6月、医療制度構造改革関連法が成立した。この医療構造改革は、医療にとどまらず健康・介護等の関連施策にまたがる大規模なもので、数年にかけて段階的に実施することとしている。改革の基本的な考え方は、生活習慣病患者の減少や長期入院の解消などにより、国民の生活の質(QOL)の維持向上を確保しながら医療費の適正化を進めることである。これを実現するため、「医療費適正化計画(5年計画)」を定め、中長期的に医療費適正化を図り、これと合わせて、新たに「後期高齢者医療制度」を創設すること、医療保険制度の体系を都道府県単位の保険者に再編・統合する等の見直しを行うこととしている。

     「後期高齢者医療制度」は、老人保険法を「高齢者の医療の確保に関する法律」として全面的に改正し、2008年4月から施行された制度である。従来の老人医療制度は、健康保険に加入したまま、老人医療の適用を受けていたのに対し、後期高齢者医療は独立した医療保険制度であり、これにより現役世代と高齢者世代の負担の明確化が図られているのが特色である。

    わが国の医療制度改革は、医療提供体制の効率化を図りつつ、国民本位の医療を提供し、日本の医療の抱える課題を解決していく中で、医療費の伸びを適正化していくという難しい問題を迫られている。
    参考文献

    河野圭子「病院の外側から見たアメリカの医療システム」新興医学出版社2006

    石川義弘「市場原理とアメリカ医療」医学通信社2007

    河野圭子「病院の内側から見たアメリカの医療システム」新興医学出版社2003

    島崎謙治「日本の医療―制度と政策」東京大学出版会 2011

    辻哲夫「日本の医療制度改革がめざすもの」時事通信出版局 2008

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